2022年06月

2022年06月30日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説していく。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これらを学ぶことで投資家としてレベルアップしていきたい。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

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1987年バークシャーの保有株は以下の通り。この年はなぜか合計額が開示されていない。
銘柄MKT value
($mil)
Capital Cities/ABC, Inc.1,035
GEICO Corp.757
The Washington Post Company Class B323

それでは1987年の内容に入っていきたい。

企業の価値と株価は一緒には動かない
"The speed at which a business's success is recognized, furthermore, is not that important as long as the company's intrinsic value is increasing at a satisfactory rate."

「その企業の本質的価値が満足いくスピードで成長している限りビジネスの好業績が市場に認識されるスピードはそれほど重要ではない。」

【解説】
本質的価値が満足いくスピードで成長していることが何より大切なこと。この満足いくスピードとはそんなに速くなくリーズナブルなリスクに応じたリーズナブルなリターンという意味だ。
実態的な価値の上昇を市場はすぐには織り込まない。また市場がいつ織り込むかを投資家は気にするべきではない。本質的価値と市場価格つまり株価は一緒には動かないのだ。乖離がある。特に短期であるほどこの乖離は激しい。しかし長期的には同じ方向に動いていく。
短期の乖離は投資家の心を惑わすだけだ。ミスターマーケットは利用するものであって影響されてはいけないというのはこの事だ。
本質的価値と株価の関係は株式投資を学ぶ上で最も根源的に重要な命題だ。
少数株を持っている場合(通常の株式投資の場合)この事実は頭では理解できても自分のものとして完全に理解することは難しい。実際に企業の経営権を所有する経験があると臨場感を持ってより深く理解できる。自分が取締役会に座り、経営者と共に会社を運営する感覚をもって企業価値を算定すると株価というものが全く実態と関係なく独り歩きしている数字に過ぎないことがわかる。本質的価値と株価に違いがあるという事は事実でこの知識を体得できれば株式投資で一歩高い視点を得られるだろう。

数字から質へバフェットのフォーカスが移っていった
"your Chairman, always a quick study, required only 20 years to recognize how important it was to buy good businesses.  In the interim, I searched for "bargains" - and had the misfortune to find some."

 「あなた方株主の会長(つまりバフェット)は良いビジネスを買うことが重要だという事に気づくのに20年しかかからなかった。その間私はバーゲンの機会を探し続け時に上手くいかなかった。」

【解説】
Good businessを買うことがいかに重要かを理解するのにバフェットは20年かかったと言っている。自分が気づきの遅さを皮肉って20年しかかからなかったと言っている。
本文の流れでは良いビジネスという「質」を追いかけるよりバランスシートから「数字」でわかるバーゲンの機会を探した結果特に優良とも思われない平凡な製造業や繊維事業や小売り事業などを追っかけ続け上手くいかなかった経験をもとに話している。この「20年」というのは繊維事業のバークシャー・ハサウェイのことを指している。
バフェットは若い時パートナーシップを始めた時から長い間バランスシートの価値、具体的には運転資本の価値に対して割安で売られている株を買いそれがフェア価格に戻ったら利食うということを20代から30代にかけてやっていた。しかし買っては売りの繰り返しでエネルギーを取られる投資手法だった。この手法は非常に大きく儲かった。具体的にはダウに対して10%以上のアルファを毎年稼いでいた。しかしやがてもうからなくなり大きな失敗をすることになる。それがバークシャー・ハサウェイを買ってしまったことだった。この失敗も含めていくつかの失敗を機にバフェットの投資手法は大きな方向転換、つまり「質」への転換をすることになる。

多くのCEOはキャピタルアロケーションのスキルが十分でない
"Once they become CEOs, they face new responsibilities.  They now must make capital allocation decisions, a critical job that they may have never tackled and that is not easily mastered.  To stretch the point, it's as if the final step for a highly-talented musician was not to perform at Carnegie Hall but, instead, to be named Chairman of the Federal Reserve. "
"... CEOs who recognize their lack of capital-allocation skills (which not all do) will often try to compensate by turning to their staffs, management consultants, or investment bankers"

「いったんCEOになると新しい仕事がある。それはキャピタルアロケーションをしないといけないということだ。それは重要な仕事であるのにかつて一度もやったことがない仕事、そして簡単にマスターできない仕事なのだ。いわば音楽家として成功した人の最後の舞台がカーネギーホールで演奏することではなくいきなり連邦準備銀行の議長になってしまうようなものだ。」
「CEOは自分にキャピタルアロケーションのスキルが無いことがわかると自分の部下にやらせたり、外部のコンサルや投資銀行に仕事を振ることもある」

【解説】
バフェットの投資哲学の中で投資家の仕事には大きく二つの柱がある。一つは経営者を選ぶこと。もう一つがキャピタルアロケーションだ。キャピタルアロケーションとは子会社が稼いだ利益をどう使うか?という命題のことだ。CEOはその使い道を決めるわけだがこれが難しい(一義的に決めるという意味。最終的には取締役会が決めるがたいていはCEOの recommendation が通る)。簡単ではない。合理的な選択、つまりどの選択肢が最も高いリターンを出すかという選択を探すことも簡単ではなくさらにその最も合理的な選択肢を「選ぶ」ということが超高難度となる。この理由は個人の利益、組織の力学が邪魔をするためだ。
このように正しいキャピタルアロケーションを実行まで成し遂げるためには2段階で難しいのにキャピタルアロケーションって何?という状態でCEOになってしまうと disaster となるのは必至だ。CEOはキャピタルアロケーションについては普通はド素人であるためだ。メカニズムもわかっていないしやったこともない。さらにヤバイのは自分にはわからないのでコンサルや投資銀行に相談とかしてしまうとパックリ開いた彼らの口にダイブして餌食となる。コンサルや投資銀行は自分たちが手数料を稼げる選択肢を推薦してくる。つまり買収などに大量の株主資本が使われ多くの場合投資銀行は大いに潤うが株主は大損コクというパターン。バフェットは再三再四このキャピタルアロケーションの重要性を訴え続けている。

ハクゴ録「バフェットは数字の分析から質の分析へ変化していった

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(00:29)

2022年06月28日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これらを学ぶことで投資家としてレベルアップしていきたい。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

1986年バークシャーの保有株は以下の通り
銘柄MKT value
($mil)
割合
Capital Cities/ABC, Inc.801.742.8%
GEICO Corp.674.736.0%
Handy & Harman47.02.5%
Lear Siegler, Inc.44.62.4%
The Washington Post Company Class B269.514.4%
All others36.51.9%
Total1874.0100.0%

それでは1986年の内容に入っていきたい。

子会社経営について
"Charlie Munger, our Vice Chairman, and I really have only two jobs.  One is to attract and keep outstanding managers to run our various operations. ....
They were managerial stars long before they knew us, and our main contribution has been to not get in their way."

「チャーリー・マンガーと私の仕事とは2つしかない。一つは子会社の優れた経営者に適切なインセンティブを与えなるべく長く経営してもらうこと。彼らはバークシャーの一員となる前から経営のスーパースターでありチャーリーと私の助けなど必要としない。チャーリーと私が彼らにしてあげられることは彼らの邪魔をしないことだ。」

【解説】
投資家の仕事とは優れた経営者を雇い彼らの邪魔をしないということだ(もう一つはバフェットが常に言っているのはここでは出てこないがキャピタルアロケーション)。投資家というのは自分が企業の所有者なのであれやこれやと経営に指示を出したがるものだ。指示が必要な場合もあるが無理やり現状のやり方を変えようとしても上手くいかない場合が多い。もともと優れた企業を買っていればなおさらだ。投資家よりも経営者の方がよっぽどそのビジネスのことをわかっているわけでしかも上手くいっているなら投資家が立ち入ることは失敗を招くことが多い。優れた経営者には口出しせず自由にやらせるのが一番なのだ。

子会社経営について
"When you have able managers of high character running businesses about which they are passionate, you can have a dozen or more reporting to you and still have time for an afternoon nap.  Conversely, if you have even one person reporting to you who is deceitful, inept or uninterested, you will find yourself with more than you can handle."

「経営者に能力と情熱があれば子会社を1ダース持っていてもまだ午後には昼寝する時間さえある。反対に経営者が報告について不正直であったり能力に欠けていたり会社の将来に無関心であったりする場合にはたった一社でも手いっぱいだろう。」

【解説】 
業績が悪かったりオペレーションでのトラブルなどは誰でも報告したくないものだ。できれば隠したいという気持ちにさえなる。
経営者はたいてい頭の良い人ばかりで、もしここで言う正直さ、誠実さに欠ける場合は大変なことになる。
経営上マズいことが起こっても自分の非にならないように報告するとか、会計ルールに反しない範囲で数字変えるとか、報告義務でない事象にしてしまうとかさまざまなアクロバティックなことをやってのけてヤバい実態を隠そうとする。特に大企業病の会社になるとこうしたアクロバットを行うためにCEOはその部下として優秀な頭脳を大量に身の回りに置き、監査法人、税務アドバイザーなどと連携して四六時中工作をしている。
こうなると投資家は企業の実態がわからなくなり報告内容のウソを見抜くために多くの時間を費やすことになる。雇われている優秀な頭脳を持つ部下たちは実態を見抜こうと厳しい目で見ようとしている投資家を欺くために日々活動しているため、つまり相手の裏をかくことをフルタイムの本業として日々シャカリキに働いているため実態を見抜くことは極めて難しい。こんな企業が子会社にいるといくら時間をかけても実態把握をすることはできないということだ。逆に正直で誠実な経営者であればそのようなことに時間を割くことはない。実態を報告してくれるからだ。従って何十社持っていても一人でマネジできるというわけだ。
ここでは雇われ経営者を想定して話しているがオーナー経営者の場合は話が違う。経営者がオーナーであれば隠すもクソもない。全ては自分に降りかかってくるわけだから隠したってしょうがなくマズイことがあれば直さないといけないわけで重要なことなら良いことも悪いこともすべて知りたいと思うはずだ。オーナー精神をもって経営し報告してほしいということをバフェットは子会社経営者に常に語っている。これは投資の成功の一つの大きなカギでありこれのために様々な工夫をバフェットはしている。

オーナー収益について
"owner earnings." These represent (a) reported earnings plus (b) depreciation, depletion, amortization, and certain other non-cash charges ... less ( c) the average annual amount of capitalized expenditures for plant and equipment, etc. that the business requires to fully maintain its long-term competitive position and its unit volume."

「オーナー収益とは (a)会計上の当期利益 + (b)減価償却、除却費、アモチ、およびnon-cashの費用 - (c)平均的に必要なCAPEX. この平均的に必要なCAPEXとはもしそれを使わなかったら長期の競争優位ポジションに影響が出るとか或いは生産量が維持できなくなってしまうような設備投資額を指す。 」

【解説】 
「オーナー収益」という概念が出てくる。これはバフェットが考えた概念でたびたび出てくるのでここで整理しておきたい。
バフェットがこの新しい概念を持ち出す主な理由は会計上の税引前当期純利益は投資家が自由に他の投資機会にアロケートできる金を必ずしも表していない、ということから来る。

バフェットは当時Buffalow News, Nebraska Furniture Mart, See’s Candies, Wescoなどから上がる利益を投資に回して成長していた。しかし利益を全部合計した金額をすべて投資に回せるというわけではないということがわかった。

この理由は最低限必要なmaintenance CAPEXが減価償却を上回る場合もあるためだ。そこで考案されたのが「オーナー収益」だった。

オーナー収益=
Net income
+ 減価償却、アモチコスト、non cashの費用
- maintenance CAPEX

これにより実際バフェットが他の投資機会に回せる利益がわかる。

また、そもそもこの「株主への手紙」の主目的はバークシャーという企業の本質的価値を推定するのに十分な情報を株主に与えることとバフェットは言っている。
会計利益と実態利益が乖離している部分がありオーナー収益という概念でそのギャップを埋め実態的な価値の推定できるという面もある。

子会社財務諸表上には買収時に払ったプレミアムによってGoodwillと無形固定資産がバランスシートに載る。これら無形資産は毎年償却をする(1984年段階ではgoodwill も米国GAAP上償却を求められていた)ためPLが下がってしまう。GAAPに従うとどんな企業でも一様に償却費・アモチコスト計上を求められるため利益が下がる。しかし価値が下がらない場合も多くあるのだ。特にバークシャーの子会社については買収後、買収時の想定よりも利益を上げている子会社が多くありこのような子会社の場合償却費を計上すると実態から乖離してしまうとバフェットは言っている。
ルール通りにみると子会社の経済実態を正確に表していないので会計上の利益をそのまま見るのではなく修正を入れたオーナー収益が実態をより正確に表しているというわけだ。

減価償却とmaintenance CAPEXについては第11回「内部留保について」で詳細説明を紹介しているので詳しくはこちらをご参照。またmaintenance CAPEXは推定が特に難しいとバフェットは言っている。これは競争力が落ちるギリギリ手前まで少なくした設備投資額となり実際に計ることは出来ないからだ。
実態を伝えるためにオーナー収益という概念を作り詳しく説明してくれている。逆に言うとGAAPには欠点がかなりあるということだ。子会社の価値が下がった時などは暖簾の減損は行っているが価値が上がった場合 goodwillが増加することはないためこの非対称性に問題があるとバフェットは言っている。ビジネスというものは複雑で一つの会計ルール(GAAP)で多くの企業実態を捉えられるものではないとバフェットは考えており投資家は会計数値をそのまま使うのではなく内容を理解したうえで実態に近いものに修正して使うべきだと主張している。

バフェットは会計ルールの限界をよく指摘しており企業バリュエーション上留意すべき点をいくつか挙げている。アモチコストはそのうちの一つとなる。もう一つよく出てくるのはストックオプション会計。バフェットは長年ストックオプション会計の変更を主張して議会まで動き一部ルール変更があったものもある。

ハクゴ録「企業の実態を捉えるために会計数値に修正を加える必要がある

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(05:41)

2022年06月25日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これらを学ぶことで投資家としてレベルアップしていきたい
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

1985年バークシャーの保有株は以下の通り

銘柄MKT value
($mil)
割合
Affiliated Publications, Inc.55.74.6%
American Broadcasting Companies, Inc.109.09.1%
Beatrice Companies, Inc.108.19.0%
GEICO Corp.596.049.7%
Handy & Harman43.73.6%
Time, Inc.52.74.4%
The Washington Post Company Class B205.217.1%
All others28.02.3%
Total1198.3100.0%

それでは1985年の内容に入っていきたい。

1985年の株主への手紙は特に内容が濃いと思った。盛り込み切れないが重要な概念がたくさん説明されている。

繊維事業の閉鎖について
"We remained in the business for reasons that I stated in the 1978 annual report (1), ... (4)the business should average modest cash returns relative to investment..... It turned out that I was very wrong about (4). "

「繊維事業を閉鎖しない理由を過去に上げたが4つ目のポイントすなわち初期投資に対してまずまずのキャッシュフローを生み出している場合は閉鎖しない、について自分の判断は大きく間違っていた」

【解説】
この年1985年繊維事業を閉鎖した。そして自分の過ちをここで認めている。
バフェットは1965年にバークシャーを買収したが海外からの競争が入ってきて業績はずっと良くなかった。バークシャーを買収したのは間違いだったのでは?自分の過ちにうすうす気が付きつつも20年間繊維事業を閉鎖できなかった。そして1985年についに繊維事業を閉鎖した。これはバフェットにとって歴史的な年で終戦の年とも言えるのではないか。繊維事業の閉鎖は象徴的な出来事だったに違いない。
この失敗により数字より質を求めていく投資哲学にシフトしていく。過去のお荷物をきれいにしバフェットはここからさらに飛躍していく。

なぜ自分の間違いを認めることができなかったのか?

"I ignored Comte’s advice - “the intellect should be the servant of the heart, but not its slave” - and believed what I preferred to believe."

「私は次のオーギュスト・コントの助言を無視してしまった ”知性とは心の奉仕者であるべきであるが奴隷となってはいけない” 私は自分が信じたいものを信じてしまったのだ。」

【解説】
この前の続きで繊維事業は業績が良くならず20年間苦しんだ。「繊維事業はきっとうまくいく」と信じていたのだがこれは客観的にはそう判断できかわけではなく自分がそう思いたいからそう信じていたのだ。ポジショントークのことだ。
繊維事業はコモディティビジネスであり多額の設備投資(restricted earning) を強いられるビジネスだった。新規機械の導入によって多少変動費を下げることは可能だったが国内外の競合も同じことをやってくるため差別化は出来なかった。
第6回で紹介した「有能と評判の経営者が経済性の低いと評判の事業に取り組むと生き残るのは事業の評判となる」という格言がここでも紹介されている。経済性の低い事業とは繊維事業のことだ。そもそも20年間苦労することになったきっかけは35歳の時にカッとなってバークシャーを買収したことに始まる。これについては第4回の「コーヒーブレイク」で紹介しているのでご参照。

インフレ下でも躍進したグレートビジネス
"The dramatic growth in earning power of these three businesses, accompanied by their need for only minor amounts of capital, illustrates very well the power of economic goodwill during an inflationary period (a phenomenon explained in detail in the 1983 annual report)." 

「追加投資の必要性が低いことと共にearning powerを大きく強めたこれら3社はインフレ下で経済的のれんの持つ力がどれほどすごいかを物語っている。」

【解説】
繊維事業と対照的に業績が素晴らしかった Nebraska Furniture Mart, See's Candy, Buffalo Evening Newsの3社についてのコメント。利益は大きく増加したがその間追加資本は少なかった。この優れた経済性はインフレ下で際立つことになる。インフレにより追加資本のコストが上がるため単位利益を増やすための追加投資が多い競合他社は株主価値を生み出すことが難しくなる。この3社は追加投資が少ないことが非常に有利に働いた。またこれら3社はその競争優位により価格決定力が高くインフレ下で求められるより高いROEを実現することができたため株主価値が大きく上昇したわけだ。これについては第10回で詳しく内容を紹介している。

インフレの企業価値への影響」で紹介したがインフレ下では4つの要因で株主価値が減少する。1)通貨購買力の低下、2)リスクフリーレート(国債イールド)の上昇 、3)コスト増による利益減少、4)資本投資のコストが上がる。この3点目を補うのが価格決定力だ。3社はこの価格決定力によりインフレ下でも価値を増加させることができたのだ。
繊維事業を閉鎖した1985年。真逆のスーパースター3社はバフェットの個人的な感情もありより際立って優良に見えたと想像できる。

ハクゴ録「繊維事業を閉鎖しバークシャーは新しい時代に

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(02:31)

2022年06月24日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これらを学ぶことで投資家としてレベルアップしていきたい
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

1984年バークシャーの保有株は以下の通り

銘柄MKT value
($mil)
割合
Affiliated Publications, Inc.32.92.6%
American Broadcasting Companies, Inc.46.73.7%
Exxon Corporation175.313.8%
General Foods, Inc.226.117.8%
GEICO Corp.397.331.3%
Handy & Harman38.73.0%
Interpublic Group of Companies, Inc.28.12.2%
Northwest Industries27.22.1%
Time, Inc.109.28.6%
The Washington Post Company Class B150.011.8%
All others37.32.9%
Total1268.9100.0%

それでは1984年の内容に入っていきたい。

内部留保について
"we believe there is only one valid reason for retention.  Unrestricted earnings should be retained only when there is a reasonable prospect - backed preferably by historical evidence or, when appropriate, by a thoughtful analysis of the future - that for every dollar retained by the corporation, at least one dollar of market value will be created for owners"

「制限のない (unrestricted) 利益を留保する理由は一つしかない。留保された$1が少なくとも$1の市場価値を生み出されるということがしっかりとした過去のエビデンス或いは深い考察に基づいた将来分析に裏付けられた妥当な見通しがある場合のみだ。」

【解説】
まず「制限のない利益」について。利益には "restricted" 部分と "unrestricted" の部分がある。企業が一年間に稼いだ利益の一部は現状維持するだけのために再投資必要な部分がある。現状の生産高を維持したり競争上の現在のポジションを維持するために利益の一部を使わないといけない場合だ。この利益部分を配当してしまったら生産高や競争ポジションを維持できなくなる。
この利益部分をバフェットは配当できないという意味で"restricted" portionと呼んでいる。言い方を変えるとMaintenance CAPEXが減価償却を超える部分が restricted portionとなる。maintenance CAPEXが減価償却の範囲内に収まるなら配当を100%払って且つmaintenance CAPEXも払えるからだ。restricted portionが大きくなると再投資の投資効率が既存よりも高くないとROEがいずれ減少していくため不利だと言える。

ちなみに1984年のバークシャーにはないが現在のバークシャーには maintenance CAPEXが減価償却を大幅に超える子会社が2社ある。それは Berkshire Hathaway Energy(発電事業)とBNSF(鉄道事業) だ。この2社は大量の設備投資を必要とするため配当を出せない。しかし2社に特殊なのは規制で守られていて競争が制限されていることだ。規制は政府の意思次第なため政府との関係を長期に渡って慎重に保つ必要がある。この2社の利益はバークシャーの最大の利益を生み出している。ここはバークシャーの一つの大きなリスクと言える。バフェットは有権者に配慮してこれら2社が他社比で非常に安い料金で顧客にサービスを提供できていることを毎年の手紙の中で強調している。

話戻ると利益の restricted portionは留保せざるを得ないが unrestricted portionを留保するためにはそれなりの経済性が確認されないとすべきではないと言うことだ。バフェットがこの留保利益について語る時想定している一番の例はシーズキャンディー (See's) だと思う。シーズキャンディー社は高い資本利益率を誇る代表的子会社だ。カリフォルニア州で大きなプレゼンスがあるのだが他州への進出は失敗している。これはブランド価値が他州ではイマイチなため。このため高いROE でバークシャーの中でも最優等生であるにもかかわらず利益のほとんどを配当しているのだ。これは利益留保によって追加的に投資された資本、つまり他州への新店舗が利益を生み出さないため留保はダメということになっている。
世の中の企業ではこの内部留保の分析をあまりせずに単純に配当性向だけ決めて内部留保している企業が多くそのような企業内で留保された利益は価値が毀損されていることになる。

内部留保からキャピタルアロケーションへの話
"the CEO of a multi-divisional company will instruct Subsidiary A, whose earnings on incremental capital may be expected to average 5%, to distribute all available earnings in order that they may be invested in Subsidiary B, whose earnings on incremental capital are expected to be 15%"

「子会社を複数持つ企業のCEOは内部留保による追加投資リターンが5%の子会社Aから利益をリターンが15%B社に社内でシフトすることができる」

【解説】
これは初めの説明から自明だが社内で利益をより高いROEの子会社で使うという事が可能だ。シーズキャンディーの利益を他の子会社或いは公開株式への投資に使っている。この内部留保については過去ずっと再三再四バフェットは説明をしておりバフェット投資哲学の最重要概念であることに疑いはない。そしてキャピタルアロケーションが上手くできるかできないかで長期的な価値創造に大きな差が出るということだ。

ハクゴ録「内部留保利益をどう使うかが重要

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(06:22)

2022年06月23日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。

バフェットを「読む」。今回は1983年の説明の続き。

1983年の株主への手紙の一番最後に Appendix "Goodwill and its Amortization" 「経済的暖簾とアモチコスト」として別枠で説明がありバフェットが丁寧に説明している重要な概念であるため今回1983年の番外編として説明したい。

Goodwillとは会計上の暖簾のことをさす。買収時に時価よりも高い金額を払った場合発生する会計上の資産項目だ。ここではバフェットは経済的暖簾 "economic goodwill"について説明している。元々goodwillとは無形の価値のことで固定資産のように形はないが価値があるもの。
しかし会計上のgoodwillの実態というのは単純に経営者が買収したい欲望に駆られて高く払い過ぎた結果をバランスシート上他に載せるところがないため goodwillとしている場合があまりにも多くむしろ「価値があるかどうかあやしいもの」という印象が強い。この会計上のgoodwill に対してバフェットは「真のgoodwill(価値あるgoodwill)」という意味で "Economic Goodwill"と呼んでいる。

この株主への手紙が書かれたのは高いインフレの時代であり高インフレ下でeconomic goodwillがある企業はさらに価値を高めるということが説明されている。まさに現在のインフレ状況で非常に参考になるエッセイだと思ったので紹介したい。

economic goodwillを持つ企業とはその商品・サービスに無形の価値(ブランドや特別な顧客経験など)を持つ企業でSee's Candyをその例として挙げている。ecomic goodwill を持つ企業は強い価格決定力を持っておりまさにグレートビジネスの質そのものと言っても良いだろう。一方通常の企業を "mundane"(平凡なという意味)とここでは呼んでいる。

以下のような想定で See's とMundaneの二つの会社の経済性を比較している。取り上げた会計項目は当期利益、Net tangible asset (NTA) これは売掛金 + 在庫 + 固定資産 - 買掛金のことだ。つまりオペレーションに必要なネットの資産のこと。そして利益とNTAの比をROI (Return on Investment)と表す。



Today
インフレ後

See'sMundane
See'sMundane
当期利益2.02.0
4.04.0
NTA (net tangible asset)8.018.0
16.036.0
ROI (return on investment)25%11%
25%11%






IV 本質的価値25.018.0
50.036.0










See'sMundane



追加投資額
8.018.0



IV増加額
25.018.0

See'sはeconoic goodwillがあるため高いROI (25%)を持っている。一方Mundane は11%と低いROIの想定だ。
バフェットはSee'sを1972年に$25mで買収した。もし昔のバフェットであれば企業の価値≒バランスシートの価値となりNTA ($8.0m) に近い金額を払うだろう。それなのに実際にはその3倍以上の$25mも払った。See'sに無形資産があるためだ。
この決定はバフェットの中で自分の殻を破る生涯最大の決断だったとハクゴは想像している。一方Mundane はeconomic goodwillが無いためその本質的価値はNTAに近いものになる。

ここでバフェットはインフレで価格が2倍になったことを想定している。その場合NTAはすぐにではないにせよいずれ2倍になるだろう。売値は2倍になるし、在庫仕入れも2倍、固定資産は時間がかかるがいずれ2倍になるだろう。これが表の「インフレ後」の数字だ。

ここで追加投資額をみるとSee'sでは$8mに対して Mundane では$18mかかる。Mundaneはもともと必要な投資額が多いためその分多い出費を強いられる。一方価値の増加はどうだろうか?

See's は利益の12.5倍が本質的価値であり$25mの追加価値になる。Mundane の本質的価値はeconomic goodwillがないためNTAの価値となり$36mだ。つまり追加価値は$18m.
追加投資額と本質的価値増加を比較すると See'sは$8m追加投資で$25mの追加価値が発生したのに対し Mundaneは追加投資$18mに対し追加価値$18mとなる。つまりMundane は投資にカネを使ってもそこから価値が増えない。投資に対するリターンが少ない、というかほぼ無い。

これは論理的な帰結ではなくMundane はもともとその本質的価値が投資額と同じくらいであるとしたためであり単にインフレによってその差が広がることを示したに過ぎない。

追加投資額が価値の増加と等しい場合、銀行預金と変わらないとバフェットは言っている。つまり投資に値しないという事だ。

このようなMundaneの本質的価値が投下資本と変わらぬ価値になってしまう理由はROIが低いことに起因している。

理論的にはこのROIが資本コストを超えられないと IV < NTAとなってしまう。つまりいわゆるeconomic profitがマイナスだとバランスシート以下の価値になってしまうという事だがバフェットは economic profit は概念はわかるがそんなに細かい計算はしないと別の年の総会では言っていた。

これは余談だが細かい詳細な計算にこだわることをバフェットとマンガーは非常に嫌っている。逆に「簡単に考えること」に非常な価値を置いている。簡単に考えることが大切。簡単に考えられない時自分は余計なことやっている、間違った方向に歩いていると二人は考えている。複雑な世界に足を踏み入れると自分の中で実は欲している結果が先にありそれをサポートするようなニセ論理を無意識のうちに作り出すためだ。simplicity はその欺瞞の余地を与えない最強の武器なのだ。
Economic profitの計算をやらない、という総会での発言したときマンガーは「ウォーレン、君はまさか私に隠れて economic profit の計算などしていないだろうね」と冗談半分でクギを刺していたがこれは多分冗談ではなくマジだと思う。この "Simplicity"を愛する文化、"complexitity"を忌み嫌う文化はマンガーがバフェットに教えたことだとハクゴは思っている。

話戻って、See'sのようなeconomic goodwillがあるビジネスはバランスシート項目の市場価値が超過収益を生んだのではなく無形資産が超過収益を生んでいる。インフレですべてのビジネスは通常より大きな出費を強いられる。しかしeconomic goodwillがあるビジネスはその出費(投資)以上の価値を生み出すためその他大勢 (mudane) と価値に差が開くわけだ。

”During inflation, Goodwill is the gift that keeps giving."
「インフレ下ではのれんは価値をもたらし続けてくれる」とバフェットは言っている。

そしてインフレ下ではグレートビジネスは無形価値によって富を築くと言っている。つまりインフレ下ではグレートビジネスと他の平凡ビジネスの差は開くという事だ。

これは バフェットを「読む」【第6回 1980年株主への手紙】 の一つ目の項目の以下の結論と結局同じことを言っている。

「逆に言うとインフレ無し状態では平凡な企業でも価値が増加するという事でその点でグレートビジネスは目立たないとも言える。インフレではグレートビジネスが際立つことになる」

ハクゴ録「インフレ時にはグレートビジネスはその他大勢と価値の差を広げることができる

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米国株ランキング

(08:26)
2022.6.22

かなり下げた米国株式市場
前々回紹介したがこれまでの米国株式相場の下げはかなりのものだ。
インフレが長引けば企業の価値は下がる。従って今までの米国株の下げは一部妥当なものだと思う。
これ以上下げる可能性も十分ある。しかしこれ以降の下げはより「ミスターマーケット」の下げである可能性が高い。

つまりミスターマーケットの感情だけで相場が上下すると言うことだ。短期の株式相場というものは感情だけでどこにでもいく。企業の価値とは全く関係なく。

ミスターマーケットとは「賢明なる投資家」に出てくるキャラクターで以下で説明があるのでご参照。


かなりフェアレンジに近いS&P500バリュエーション
現在のS&P500はPERで21x程度まで大きく下落していると思われる。
これは昨年末から株価は20%下がっているのに加えS&P500のEPSは10%程度増加しているためだ。もちろん今後インフレでEPSが下がることを織り込んで株価が先行しているわけだがそれを勘案しても実質30%くらい株価は下がっていると考えられる。企業価値がここ半年で30%下がったかと言われるとそれはまず無いと思う。

そう考えると今のS&P500はかなりフェアレンジに近いと思う。
しかし短期の株式相場というものは感情だけでどこにでも行くもの。だからこそこれ以上の下げはミスターマーケットの下げということだ。つまりここから下げるほど買いのチャンスである可能性が高くなる。

ハクゴの勘では多くの投資家がこれにすでに気が付いている。従って下がらないのではと考えているがこればっかりはspeculationだし自分がどうこうできるものではない。

投資家は自分にできることに注力すべきであり投資家にできることとは、
「リスクを勘案した上で長期金利に対して十分高いリターンが長期で期待できるなら買うのが合理的」ということだ。
これはどんな時代にも変わらない真実だ。

買うのが合理的なレベルまで株価が下がれば今後グレートビジネスを買い増していきたい。

ハクゴ録「ミスターマーケットが活躍するとき賢明なる投資家にはチャンスとなる

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(00:21)