2022年08月

2022年08月29日

2022.8.28

短期の株価の方向より長期の価値の方向の方が確実
FRBのインフレファイトの姿勢で株価が大きく下げている。今後もまた暴落が来るかもしれない。

▪️インフレは明らかに経済にとって悪いことだ。
▪️高金利は株や債券などのキャッシュフローを産む資産の価値を確実に下げる。
▪️インフレは今後何年続くかはわからない。
▪️リセッションが近いかもしれない。

しかし10年後20年後には株式投資の価値は今よりはるかに高いところにいるだろう。

10年前の2012年8月。Q2業績で3M, Caterpillar, DuPont などのアメリカの大手企業は足元経済の減速を感じており不確実性が増加していると言っていた。リーマンショック後のグレートリセッションでアメリカの経済は大打撃を受け当時はそこから立ち直りつつある時期で経済はまだ力強い回復には至らず経済ニュースでは2番底がくるかどうかが議論されていた。実際当時の株式相場はそのような心配から度々急落していたのだ。

しかしそこから10年経った今、年初来相当の下げと言われているがそれでもS&P500は10年前のおよそ3倍になった

その間平坦な道では決してなかった。
欧州債務危機があったしブレグジットもあった。米中貿易摩擦もあったしパンデミックもあった。インフレも起こっている。戦後初めてヨーロッパで戦争が起こってもいる。2012年にはどれ一つまだ見えていなかったリスクだ。

10年間でいくつもの甚大なリスクが具現化した。それでも株価は大きく上がっている。

甚大なリスクがあったと同時に10年間で社会は大きく進歩した。

10年で大きく進歩する技術
当時心配されていた金融機関のバランスシートは大幅に改善した。
2012年スマホはあったがAIはまだ広く実装されていなかったし画像認識は過去10年で格段に進歩した。
アマゾンのサービス規模は今の8分の1だった。
Uber サービスはほとんどの都市でまだなかった。
自動運転車はまだ認可されたいなかった。
仮想通貨はまだ投資資産ではなかった。
民間宇宙産業はまだ商業化の初期段階だった。
遺伝子編集技術はまだなかった。

10年で大きく進歩した。

株価が上がろうが下がろうが科学技術の発展は止まらない。景気が上がろうが下がろうが技術発展は今後も止まらない。技術の発展は経済の生産性を確実に上げる。後戻りすることはない。

今後の10年も未曾有のリスクが具現化するだろう。

しかし同時に今は不可能な多くの技術も10年後には一般に普及しているだろう。リスクと進歩のネットで経済は今よりも格段に発展していると思う。

生まれた時からスマホがあった世代が10年後には新しい技術を生み出す主役になっているだろう。
20年後はもっと発展する。

100年後の発展はもっと確実だ。100年前の生産が今より遥かに低かったように。

100年前は人々の食糧を確保するために人口の40%が農業に従事する必要があった。今は2%にも満たない。1経済ユニットあたりの生産は科学技術レベルの増加関数であり生産性の向上は企業価値増加の主要ドライバーとなる。

長期投資の中にはこうした技術革新が価値増加のドライバーとして含まれている。また中間層を中心とした人口増も含まれている。どの企業が勝ち残るかはわからなくても全体としては価値が増加していくだろう。

株式の価値が長期で増加するメカニズムは(A)一経済ユニットあたりの生産量が増えることと(B)内部留保が貯まっていくからだ。

(A)は前述の技術革新とガバナンスなども含めた生産性向上による。日本企業はここが弱い。(B)はほぼどこの国でも起こる。

(A)と(B)の掛け合わせで長期になるほど確実に企業の価値は増加していく。
長期では株式会社の全体の価値を反映するインデックス投資が一番確実に価値が増えるだろう。短期の株価の動きに賭けるより長期の市場全体の企業価値増加の方が遥かに確実な bet だと思う。

短期の株価を読もうとすることは人の心理を読もうとしている。他人がどう考えるかを読もうとしている。企業の実態を読もうとしているわけではない。投資家の長期の未来は企業の未来にかかっているのだから長期投資家は企業の実態を見るべきだ。

企業の実態は企業が生み出すサービスや商品の向上や生産性にかかっている。その企業のことを外部からしか知らない他人がどう楽観視・悲観視するかなんて全く関係ない。他人は何もやってくれない。助けてもくれないし責任も取らない。企業の価値を作るのは企業を運営している人たちだ。

長期で市場全体の企業価値が増加する確率は高くその中で市場全体をアウトパフォームする企業を探すことが投資家がフォーカスすべきことだろう。

確実なものに賭けるのが長期で勝率を上げる秘訣だ。

短期の株価がどっちにいくかを考えることは長期の投資家の仕事ではない。下がったらむしろプラスだ。

ハクゴ録「株価の動きを読むのは長期投資家には意味ない

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(00:34)

2022年08月27日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2019年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company18,8747.6%
Apple Inc.73,66729.7%
Bank of America Corporation33,38013.5%
Bank of New York Mellon4,1011.7%
Charter Communications, Inc.2,6321.1%
The Coca-Cola Company22,1408.9%
Delta Airlines In4,1471.7%
Goldman Sachs2,8591.2%
JPMorgan Chase & Co.8,3723.4%
Moody’s Corporation5,8572.4%
Southwest Airlines C2,5201.0%
United Continental Holdings Inc.1,9330.8%
U.S. Bancorp8,8643.6%
Visa Inc.1,9240.8%
Wells Fargo & Company18,5987.5%
Others38,15915.4%
Total248,027100.0%

それでは2019年の内容に入っていきたい。

トム・マーフィーの助言
"Tom Murphy, a valued director of Berkshire and an all-time great among business managers, long ago gave me some important advice about acquisitions: “To achieve a reputation as a good manager, just be sure you buy good businesses."

「トム・マーフィーはバークシャーの貴重な取締役であるとともに私の知る最高の経営者だ。トム・マーフィーはかつて買収について大切なアドバイスをくれた。「経営者としての名を残したいならば良い企業を買収することだ」と。」

【解説】
 トム・マーフィーとはキャピタルシティーズ (Capital Cities) というメディアビジネスのCEOを1966年から27年間務めた人物でバークシャーの取締役も務めた。バークシャーはキャピタルシティーズの株を1985年から保有しており1995年にディズニーへの株式交換による売却によりバークシャーはディズニーの投資家になった。

当時の買収金額はなんと$19billion. 当時最大級のM&A案件だった。このビッグディールのきっかけとなったのはバフェットとマーフィーと当時のディズニー社長のマイケル・アイズナーの三人がアイダホのサンバレーという避暑地で毎年行われるメディアコンフェレンスで出会ったことだ。このサンバレーコンフェレンスというのは業界の大物が多数参加しここから大型合併買収につながるケースが多く非常に注目されている。

バフェットはトム・マーフィーについて「トム・マーフィーはビジネスの全てを知っている」と言うほどバフェットが最も尊敬している経営者だ。
バフェットはトム・マーフィーを完全に信頼しておりバークシャーの持ち分18%に関して議決権を11年間にわたりトム・マーフィーに委任したほどだ。

トム・マーフィーは20代の頃実家を訪れた時のパーティーでたまたま知り合った人がニューヨークのアルバニーという離れた土地でつぶれたテレビ局を買ったことを知った。その人がセールスマンを探していたことをきっかけにキャピタルシティーズ前身となるテレビ局に関わることとなった。その後トム・マーフィーは規模の拡大と多様化を重視するライバル企業に対してビジネスの効率性と集中に特化することでビジネスを立て直し後に加わった Dan Burkeと二人三脚でキャピタルシティーズを零細企業から巨大メディアへと成長させた。

バフェットはトム・マーフィーから経営、キャピタルアロケーション、リーダーシップなど企業経営について多くを学んだ。以下はそのハイライトだ。

◆ 少ない人数でも立派な仕事を成し遂げることができること。最高の人材だけを雇い十分な報酬を与え余計な人数は雇わないこと。
◆ 社内に無駄な機能は作らないこと。特別に有能な人材をだけを雇いその有能な人材に権限を委譲すること。キャピタルシティーズでは現場のマネージャーに全てのオペレーション上の決定を下す権限があった。NYの本社には何も承認を求める必要がなかった。バフェットのバークシャーと全く同じ "decentralization" 経営だ。
◆ どんなに会社が大きくなっても無駄使いをしないこと。本社機能にほとんど人も雇わず費用もかけないキャピタルシティーズのスタイルもバークシャーのモデルの手本になっていると思われる。
◆ そして倫理観に反することは少しであっても決してやってはならないこと。それをすれば得られることよりもはるかに多くのことを失うだろう。

バフェットの発言はトム・マーフィーの過去の発言と重なるところが随所にある。その中でも「バフェットに学ぶ経営者の資質」(2018.12.5)で紹介した1987年のソロモンブラザーズ事件の議会公聴会。この時のバフェットの言葉を振り返ってみたい。

オマハで開かれるバークシャーの株主総会ではバフェットの登壇の前に必ずこの公聴会ビデオが流され倫理観を最重要視するバークシャーの企業哲学が株主とともに毎年再確認される。

"Lose money for the firm and I’ll be understanding. Lose a shred of reputation for the firm, and I’ll be ruthless."

トム・マーフィーが社内のミーティングで常に部下に言っていた以下の言葉がある。

"I can accept mistakes, but do not ever lie to me or anyone else in the company. There is no second chance here."

倫理観を最重要視する経営哲学で重なっているのが見える。

第45回2017年」の一つ目のトピックの3項目目で出てきたバフェットが重視する経営者の資質に「能力・情熱・integrity」があることを紹介した。どのような経営者を選ぶか?これはバフェットの投資哲学の根幹であるがこの3つ目の integrity もトム・マーフィーから強い影響を受けていると思われる。バフェットに最も大きな影響を与えた人物を父親以外で上げるとしたらグレアム、マンガー、そしてトム・マーフィーの3人であろう。

残念ながら今年5月に亡くなられたが来年2月に発表される「株主への手紙」ではバフェットはトム・マーフィーの功績について詳しく語るだろう。

そのトム・マーフィーの助言が今回取り上げた内容だ。マーフィーは買収の名手だった。強いprice disciplineと独特の交渉、相手と駆け引きするのではなく正直にフェアと考えられる値段で合意することに努めた。トム・マーフィーの買収話を名前を伏して聞くとまるでバフェットの買収かと思うかもしれない。

多くの企業買収は失敗(企業価値の毀損に終わるケース)が多い。その理由の多くは平凡な企業をターゲットにし過大な価格で買収するケースが多いためだ。規模拡大の誘惑は大きく平凡な企業の買収で規模を大きくしても遠からず失敗は見えてくるだろう。それまでは名経営者と言われていたのに買収で失敗して多くの経営者は評判を落とすということだ。

そしてこの企業の買収の難しさについての話題は次のトピックにつながっていく。

買収提案は賛成反対の両方の意見を聞くべき
"Overall, the deck is stacked in favor of the deal that’s coveted by the CEO and his/her obliging staff. It would be an interesting exercise for a company to hire two “expert” acquisition advisors, one pro and one con, to deliver his or her views on a proposed deal to the board – with the winning advisor to receive, say, ten times a token sum paid to the loser."

「取締役会に上がってくるCEOからの買収提案はCEOとその部下たちがその買収をやりたがっているものばかりだ。こういう実験をやってみたら面白いかもしれない。買収に賛成するアドバイザーと反対するアドバイザーを雇い取締役会に提案をする。提案が通らなかった方のアドバイザーの報酬は少額にして通った方はその10倍の報酬を与える。」

【解説】
企業買収の話題の続き。買収についてバフェットが語ることは多い。それは買収の失敗があまりに多いためだ。買収の7割は失敗すると言われている。

買収というのは簡単でない。まず優良な案件自体数が少ないことと買収価格がたいていは高すぎるためだ。買収案件は通常経営者から提案され取締役会の承認を経て実行される。なぜCEOは買収案件を推すのだろうか?もちろん企業の成長に寄与するからだがそれだけではない。

買収をすると企業規模は大きくなり企業規模が大きくなるとCEOは個人的に得することがたくさんある。規模が大きい他社のCEOと報酬が比較されるようになる。何十$Millionという報酬を得ているクラブに入れるわけだ。「第33回2005年」の一つ目のトピックでも出てきた "perks"も大きくなり個人的に使えるベネフィットは格段に大きくなる。しかし買収が当初計画通りの利益を上げなかった場合報酬が取り上げられることはないし(うまくタイミングを計った減損なども含めた)あらゆる言い逃れをする。買収の当初計画を見直すCEOはほとんどいない。このように経営陣と株主は買収案件では利益が一致していないのだ。それどころか相反している。CEOが個人的に得る報酬と言うのは個人にとってはとんでもなく大きい金額でもらえるかもらえないかは天地の差で案件を通すインセンティブは非常に強い。一方株主にとってはCEOの給料数十$millionという額は企業価値に比べると米ツブみたいなものなのでこの交渉は経営者に分がある。

当たり前だが経営陣から取締役会に提案される案件は全て買収を推す意見しかない。本来買収提案は客観的な分析に基づいた結果買収を推薦するものだ。しかし実際には買収をやりたいという経営陣の「意図」が必ず入ってくる。そして経営陣と株主の利益は一致していないのでこの「意図」をうまく隠して客観的決断に見せかける経営者がいることは想像に難くない。経営者を取り巻く優秀な部下が買収提案を作る。さらに投資銀行なども入ってきて精緻過ぎる分析で論破が難しいプレゼンが出来上がり取締役会は反対することが難しくなる。

しかし失敗する買収案件が多い以上取締役会は極力客観的な分析を望み、プレッシャーを感じることなく "No" と言える環境で判断できて然るべきだ。ならば買収に反対する人の意見も聞くのが筋ではないかというのがここで取り上げた段落の主旨だ。反対意見が通ったら利益が得られるようにインセンティブをつければよいということだ。積極的な反対意見、批判的考察というものは経営陣側からは出てこない。

このような組織のbehavior を熟知していることは取締役にとって必須のクオリティと言えるだろう。

ハクゴ録「バフェットはトム・マーフィーからビジネスの多くを学んだ

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(01:11)

2022年08月25日

2022.8.24

株を買う理由とは?
長期の投資家が株を買うという判断をするのはどういうことだろうか。大きく2つのステップに分けられる。

企業のファンダメンタルズを分析しその企業が長期的に競争に勝ち抜いて利益成長する企業と判断するというのが第一ステップ。つまりファンダメンタルズ分析が投資家として第一の仕事だ。

②次のステップは①を前提としてそのような企業の株価が事業リスクを勘案した上で長期で十分に高いリターンが期待できるレベルであれば買いと判断できる。

マクロの経済環境に影響される企業
投資できると判断したグレートビジネスでも例えば現在のインフレ下では業績が下がり本質的価値が下がる可能性があると考えるのは合理的だ。しかしインフレはその企業の他社との競争優位にはあまり関係ない。と言うかむしろプラスになる。なぜならグレートビジネスはたいていの場合はコスト競争力があるライバル企業よりコスト競争力がある場合インフレ下ではライバ企業と差がつき追加的比較優位が得られるからだ。比較優位性が高まれば価値は上がる。

投資における「価値」とは相対的な選択の魅力のことを言う。

自社の業績がインフレでズタボロになったとしても他社がもっとズタボロなら自社の価値は高いと言える。

それでは相対的な魅力が増しているのに本質的価値が下がるのはなぜか?
市場には必ずリスクフリー証券、つまり国債という投資対象がある。業績ズタボロになった場合国債との比較優位性は下がる。これが本質的価値が下がる理由だ。しかしその場合でも国債と株という二つのアセットクラスの相対的な魅力度のアンバランスは長くは続かない。市場の価格調整が短期間で働くからだ。そして競争優位性のある企業というのは長期では他社比の相対価値は上がっていく。なのでいったん本質的価値が下がることはマクロ環境の変化によりあり得ることだ。今もその状態にあると思う。しかしそれは国債に対する相対的価値の低下なのだ。ライバル企業に対する相対的価値が低下したわけではない。


本質的価値は一旦下がった後またすぐに上がり始める(二つのアセットクラスの価格調整がすぐに働くから)。そしてこの価値が上がるペースはおそらく価値が一旦下がる前よりも速いペースで上がる。理由は上の赤い下線部の追加的比較優位性があるためだ
しかし投資家としてはその間の時間を失うことは確かだ。もちろんこれは長期の投資パフォーマンスにとってマイナスに働く

このようにマクロ経済の状況は個別企業の本質的価値に影響するのは確かだがそれも含めて株式投資の長期のリターンが平均的に8%-9% になるということだ。

タイミングは当てられるのか?
リセッションの前に、つまり本質的価値が下がる前に株を売ることが合理的と判断するならば、売った金で債券を買うか、或いはグレートビジネスは売らずに保有し続けてそれに劣後するライバル企業をショートすることが合理的と言える。

しかしこれはほとんど机上の空論だ。
良いタイミングで売れれば最高なのだがタイミング良く売れる人は非常に少ない。上手く売れたとしても売った株価よりも安く買い戻しができないと株価は長期では上昇するので乗り遅れることになる。2回連続でタイミングよく行動できるなんてまずムリ。
タイミングを計ってトレードすることが多くの人にとって長期投資上重大なトラップとなることを考えると結局売りのタイミングを狙うより買い増しが賢い選択となる。

なので結論はやはり株式投資投資から降りるという選択は賢くなく業績を分析した結果グレートビジネスだと結論したならば高過ぎない妥当な株価であるならば買いが賢いとしか言いようがない。

相場との向き合い方
相場の動きというのは投資の意思決定上は相場が投資家にserveしてくれるという意味以外には意味がない。

a) 株価に株取引を誘発されてはいけない。
b) 株価が十分安ければ株を買う強い理由になる。

この一見矛盾するような二つの命題を非常に上手く square した言葉がある。1987年の手紙にあったバフェットの言葉を紹介しよう。

"Mr. Market is there to serve you, not to guide you." 

ミスターマーケットを利用できるのが利点だ。ミスターマーケットに影響されて売買してはいけないということだ。

「サーブ」してくれることのみがミスターマーケットの価値なので普段はずっと無視していないとミスターマーケットに「ガイド」されてしまう。

逆にミスターマーケットの声を聞いて投資判断をすること、これが投資において最も愚かなことと言えるだろう。

最も愚かなことを避けることが簡単なことでないというのが投資の世界の不思議だ。

この理由については過去「株価を頻繁にチェックしないほうが良い理由」(2020.12.29)で深堀した内容を紹介しているのでご参照。

結論、株価の動きはあなたを serveしているか?それとも guideしているか?それはあなた次第ですということになる。都市伝説みたいだがこの相場との向き合い方を体得することは投資を学ぶことで重要なことだと思う。

ハクゴ録「Mr. Market is there to serve you, not to guide you.

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(01:58)

2022年08月24日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2018年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company14,4528.4%
Apple Inc.40,27123.3%
Bank of America Corporation22,64213.1%
Bank of New York Mellon3,9772.3%
Charter Communications, Inc.1,9351.1%
The Coca-Cola Company18,94011.0%
Delta Airlines In3,2701.9%
Goldman Sachs3,1381.8%
JPMorgan Chase & Co.4,9462.9%
Moody’s Corporation3,4552.0%
Southwest Airlines C2,2261.3%
United Continental Holdings Inc.1,8371.1%
U.S. Bancorp6,6883.9%
USG Corporation1,8511.1%
Wells Fargo & Company20,70612.0%
Others22,42313.0%
Total172,757100.0%

それでは2018年の内容に入っていきたい。

良いビジネスが割高な場合売るのか?
"True good businesses are exceptionally hard to find. Selling any you are lucky enough to own makes no sense at all."

「本当に良いビジネスと言うのは探すのが難しい。なので保有出来たらラッキーなことでそれを少しでも売ることは全く make senseしない。」

【解説】
これはハクゴが常々悩むテーマの一つだ。良いビジネスはオーバーバリューになりやすい。グレートビジネスがオーバーバリューになったら売るべきなのだろうか?
答えは No だ。
ではめちゃめちゃオーバーバリューになったら?株価収益率が70倍、80倍とかになったら?どう判断すべきなのか?それでも売らないほうが良いのだろうか?このような株価というものは長期では決して持続しない。つまりいつか必ず下がる。では売るべきなのか?

一つ考えたのはこれを考えている時点で株価に注目している自分がいるということだ。株価に影響されている自分がいる。この時点で投資家としてのフォーカスがずれていると思う。株価ではなく利益で投資を回収するんだという全うな信念があれば株価に影響されないはずだ。そして利益で投資を回収する場合の投資リターンというのは長期で保有しているならば十分高い水準だろう。だったらその十分高い水準を受け入れるべきだと思う。つまり "satisfactory return" が既に手に入っているのであればそれを売るのはおかしいと思う。そしてグレートビジネスならそのsatisfactory return は長期にわたって継続するだろう。

satisfactory returnを求めることの重要性を以前書いたことがある。
「投資の成功のカギの一つ 「賢明なる投資家のマインド」(2021.7.23)

ハクゴは投資のゴールとは賢明なる投資家のマインドを持つことだと考えている。それができた時パフォーマンスはついてくるものだと思う。そして satisfactory return を求める気持ちは賢明なる投資家のマインドの重要な要素だと考えている。

結論は売らないということだ。ハクゴは個人的な経験でもグレートビジネスだと思った株を利食って失敗したことが多い。この経験則からもグレートビジネスは売らないのが賢いと思う。

保険事業の特殊な財務構造
"Beyond using debt and equity, Berkshire has benefitted in a major way from two less-common sources of corporate funding. The larger is the float I have described."
"The final funding source – which again Berkshire possesses to an unusual degree – is deferred income taxes.These are liabilities that we will eventually pay but that are meanwhile interest-free."

「負債と資本に加えてバークシャーはもう二つのファイナンスソースがある。この二つのソースはあまり知られていないが金額は大きく重要でその一つ大きい方は保険事業のフロートである。」
「もう一つも金額は大きい。それは繰延税金(負債)だ。この負債はいつかは払うがそれまでの間金利がつかない。」

【解説】
バークシャーの財務構造についてのトピック。バークシャーのファイナンスソースとしては借入と自己資本の他に保険事業のフロート (float)がある。このフロートとは、「第2回1977年」で出てきたが保険料のことだ。この保険料は会計上は負債に計上されるが投資に使われるため実質的に資産して機能している。しかも金利コストがない。これはコストのかからない負債調達でバークシャーの企業価値を生み出す源泉になっている。このフロートは主に株式投資に使われている。毎回このブログの初めにバークシャーの保有株式リストを載せているがこれら株式投資は主にバークシャー傘下の保険会社のバランスシート上で行われている。

”Other people’s money”(他人のカネ)という言葉をここでバフェットは使っている。他人のカネを如何に上手く使うか。これは株式投資に限らず富を生み出す一つのカギとなる重要な概念だ。フロートはOther people's money の一つだ。”Other People’s Money”という映画が1990年代にあった。レバレッジバイアウトの企業買収劇の話で投資がテーマの映画。おススメです。

借金は「他人のカネ」の代表例だがリスクが大きい。それに比べフロートは返済義務はないためリスクは少ない。もちろん保険金支払い義務はあるがそのリスクは保険対象となる事象の確率と保険料のバランスで決まるもので返済義務がリスクになるのではなくリスクに応じた保険料を取れていないことがリスクになるので借金のリスクとは違う。買掛金なども「他人のカネ」の一種でこれをうまく使う企業例えばウォルマートなどが代表的だが運転資本を劇的に減らすことができる。また前払いビジネス、サブスクリプションモデルも他人のカネをうまく活用できるビジネスモデルの例だ。この他人のカネの威力は株主価値を上げるための非常に強力なツールだ。「第45回2017年」の初めのトピックの3つ目の項目で出てきたが、必要資本に対する利益が高い企業をバフェットは探しているがこの他人のカネは必要資本を減らす効果があり投資選択上重要なポイントと言える。

このバークシャーのフロートは$122billion もある。この年自己資本が$352billion であることを考えると非常に大きい。

もう一つの繰延税金負債 (Deferred income tax liabilities) も funding sourceとして数えている。これはバークシャーの場合主に保有株式の含み益から発生する。含み益のある株を売却するとキャピタルゲインが発生し課税される。しかし売るまでの期間は納税義務は発生しない。つまり納税タイミングを自分で決められ且つ払うまでの利息は取られない。

本来は政府に属するカネなのに売るまでは払わなくてよくその間利息なしで運用してよいので重要なファイナンスソースと言える。バフェットはこの繰延税金負債を「政府からの無利息のローン」とも呼んでおりその額はこの年 $50.5bilもある。これらはフロートと同じく自己資本と同じようにバークシャーの利益に貢献するが自己資本にはカウントされない。

ハクゴ録「バークシャーはファイナンス構造でも強い優位性を有している。

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(01:56)

2022年08月23日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2017年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company15,0568.8%
Apple Inc.28,21316.5%
Bank of America Corporation20,66412.1%
Bank of New York Mellon2,8711.7%
BYD Company Ltd.1,9611.1%
Charter Communications, Inc.2,2811.3%
The Coca-Cola Company18,35210.8%
Delta Airlines In2,9741.7%
General Motors Company1,8251.1%
Goldman Sachs2,9021.7%
Moody’s Corporation3,6422.1%
Phillips 667,5454.4%
Southwest Airlines C3,1191.8%
U.S. Bancorp5,5653.3%
Wells Fargo & Company29,27617.2%
Others24,29414.2%
Total170,540100.0%

それでは2017年の内容に入っていきたい。

投資の選定基準
"In our search for new stand-alone businesses, the key qualities we seek are durable competitive strengths; able and high-grade  management; good returns on the net tangible assets required to operate the business; opportunities for internal growth at attractive returns; and, finally, a sensible purchase price."

「新規投資を探す時に買収先の企業に求めるクオリティは以下の通り。
1.永続的競争優位性
2.有能でトップレベルの経営陣、
3.事業運営上必要な net tangible assetsに対する良い利益率、
4.内部での成長機会と高いリターン、そして最後に
5.妥当な買収価格」

【解説】
バフェットは投資する先の企業のどこをみているのだろうか?
今回の手紙ではバフェットが企業買収で見ているポイントを挙げている。これらの項目の内容は過去にも繰り返し言われてきたものだがここでまとめておこう。

1.永続的競争優位性
競争優位性。Moat(堀)とも言う。バフェットは永続する競争優位性を有する企業を探している。業績の良い企業の中にはたまたま需要の追い風で業績が良くて競争優位があるように見える企業もあるだろう。競争が激化したり需要環境が変化した時でもライバル企業より高い資本利益率を継続的に出せる企業かどうか。永続性が一つの重要なポイントとなる。

永続的競争優位性には様々な要素がある。ブランドや無形資産、スイッチングコスト、コスト競争力、ネットワーク効果などの代表的なパターンがある。
またそもそも競争関係や顧客の動きの変化の少ない業界であるかなども重要な要素となる。競争自体が少なければ自社の優位性を維持することは容易になるからだ。バフェットはこうした変化の少ない業界で強靭な地位を築いている企業に特に注目している。

ビジネスによっては "winner takes all" 状態になるビジネスもある。例えばパソコンOSとかインターネットサーチ、地方新聞など。このような業態は独占状態に近くなり高い経済性が可能となる。

また顧客 loyaltyを如何に築けているかどうかもビジネスの基本だが大切な要素だ。顧客が求めていることを知りそれを顧客に届けるところまで実行できるシステムを常に改善し続ける企業。多くの企業はこうした基本を始めは持っていても長年の間に色々な形でそれていってしまう。
基本を愚直に続けるということも永続性の一部だろう。企業のどこに永続的競争優位性があるのか?この仮説を立て検証していくことが投資における重要なプロセスと言える。

2.経営者
経営者の資質として特に能力、情熱、integrity を重要な要素としてバフェットは挙げている。3つ目が欠けている場合初めの二つが破滅に導くと言っている。つまり有能で情熱がある経営者が正直さ・倫理観に欠けている場合大きな事故になる可能性を秘めているということだ。これは住宅バブル叱り、エンロンしかり、ソロモンブラザーズしかり。。。枚挙にいとまがない。その理由の一つが integrityの欠如だ。

経営者の資質を本物かどうかを見抜くことは仮に経営者に会って話す機会があっても簡単ではないと思う。たいてい経営者というのは優れたセールスマンでもあり非常に魅力的な人が多い。この人はスゴイ!と思わせてしまうような人が多い。簡単にコロッといってしまうわけだ。なのであえて経営者に会わないという投資家もいる。これは投資家それぞれでバフェットの師 Benjamin Graham は経営者に会わない派だ。や「第42回2014年」の一つ目のトピックでも出てきたバークシャーの投資部門の後継者の一人 Ted Weschler なども経営者に会わない派らしい。Weschlerは会うとやはり経営者の魅力でポジティブな印象を持って客観的に見れなくなってしまうと言っていた。

バフェットはどのように経営者の資質を見抜くのだろうか?この点はハクゴは個人的に一番興味のあるところだ。

バフェットが過去の発言ででてきたポイントとしては経営者にその会社の問題点を語ってもらうことがある。良いところだけでなく問題点を正直に語ってくれる人かどうかは一つのポイントだ。また考えていることが読みやすい人という点も過去に挙げていた。本音では何を考えているか読みにくい人というのはいる。そういった人は避けるということだろうか。それから面白いと思ったのは自分の娘を結婚させたいと思うかどうかという観点で考えたりもするとも言っていた。要は正直で良い人間かということだろう。至極全うな考えだと思う。

良い印象を与えようといろんなテクニックを使ってくる人もいるので経営者の話は注意深く聞くべきではあるが、一方そんなに難しいことでもないような気もする。

3.資本に対する利益率
これはいくつかの見方がある。ROE, ROICなどが代表的なものだがここでは Return on Net Tangible Assetを見ているとある。この手紙上以外でもこのNet tangible assetはバフェットの話の随所に出てくる指標だ。このNet Tangible Assetとは運転資本+ PPE のことだ。つまりそのビジネスを運営するために必要な資産ということ。売掛金、在庫、設備。これらが会社を運営するために絶対不可欠でこれを資本でファイナンスする必要がある。ただし買掛金の分は支払いを待ってもらっているためこの分は net できる。このネット資産に対する利益というのが資本効率性を表す重要な指標だ。このネット資産が小さい企業はネット資産が大きい企業に対して非常に強いアドバンテージを持つ。

特にインフレや不況などの経済が厳しい局面で強さを発揮する。ネット資産が少なくて済む企業と言うのはいわば同じ賞金の賭けを少ない賭け金でできるようなものでその優位性は非常にパワフルなものだ。しかもこの資本利益率は簡単に計算できる。もちろんcapital intensiveなビジネスの場合つまり設備投資が大きい場合はその計算はより精緻な補正が必要となるが。それでも競争優位性とか経営者とか他のクオリティに比べると一番具体性が高い項目と言えるだろう。

4.内部での成長性 
「内部での」というのは買収ではなくて、という意味だ。内部での成長機会と言うのが成長の基本であり「第40回2012年」の二つ目のトピックでも紹介した内容だが内部での成長機会がないと結局は資本に対する利益率というものは長期では伸びていかない。

資本利益率の高い内部成長機会を探すこと。これこそが経営者の最大の腕の見せ所と言っても過言ではない。これができれば企業は "Compound machine" (複利マシーン)となり企業価値はグングン増加するからだ。

5.妥当な買収価格
最後は買収価格。これは言うまでもなく本質的価値に対して十分なディスカウントで買うことが必要となる。どんな優れた企業にも価値には限界がありそれ以上にカネを払うと投資で高いリターンを上げることは出来ない。price disciplineの重要性は強調してもし過ぎることはない。

それをわかった上で以下の二つを考えてみたい。

(A) Price disciplineの重要性
(B) 本質的価値を見誤ることで失う機会損失。機会損失を回避する重要性

(B) はdiscipline に欠ける行為、つまり高いとわかりつつ「買いたい(感情)から買う」ということとは別のものを議論したい。そうではなく自分が blind spot を持っていることで見えていない価値をうっかりパスしてしまわない重要性ということだ。つまり企業価値を見誤っているパターンだ。

バフェットは過去の最大の失敗は "not commissions, but omissions." と言っている。これは投資して失敗したことよりも投資しなかったことによる失敗の方が大きいと言っている。つまり機会をミスったことによる失敗が大きい。これの例としてバフェットが良く上げるのがウォルマートだ。ウォルマートに投資しなかったことで少なくとも$50bilの機会損失があったとマンガーは言っていた。

投資判断においては情報の非対称性もあるし情報があっても重要性に気が付かないこともある。誰しも blind spot を持っているものだ。したがって自分の判断が間違っている可能性は常にある。「自分」を外から見ること、或いは他者の見方を参考にすることはその意味で重要なことだ。

バフェットの場合はマンガーと言う強力な 2nd opinion が横についているためミステイクを避けることが過去何度もあった。一番重要だった例は1972年のSee's Candyの買収の例だろう。これについては「第4回 コーヒーブレイク」で紹介したがマンガーに救われて機会損失を回避できた。このように blind spotというものは必ず誰にでもあるものなのでそれを所与のものとして他者の見方を参考にすることが大切だと思う。

他者の意見を参考にする時3つの重要なポイントがあると思う。

1)他者の論理がmake sense すること。
2)その人の過去の判断が正しかったというトラックレコードがあること。
3)3つ目の注意点は自分の中にある。2nd opinionを求めている時点で他者は自分の意見とは違う意見をもっている。自分が同意できない意見を受け入れようとする時普通は強い違和感 discomfort を感じるものだ。このdiscomfort を受け入れる openess が自分の中になければならない。

この3つ目のポイントは特に重要だと思う。これが欠けている場合投資家として自分の盲点から外に出ることは出来ないだろう。

買収をしたがるCEO
"Once a CEO hungers for a deal, he or she will never lack for forecasts that justify the purchase. Subordinates will be cheering,  envisioning enlarged domains and the compensation levels that typically increase with corporate size. Investment bankers, smelling  huge fees, will be applauding as well. (Don’t ask the barber whether you need a haircut.) If the historical performance of the target falls short of validating its acquisition, large “synergies” will be forecast. Spreadsheets never disappoint"

「いったんCEOが(買収)案件をやりたくなるとCEOは買収を正当化する材料には事欠かない。買収により企業のサイズが大きくなるとたいていは担当範囲や報酬も増えるので部下たちはCEOの買収を喜んでサポートするものだ。投資銀行は買収案件からくる多額の報酬をかぎつけ買収は素晴らしいアイディアだとほめちぎるだろう(床屋に散髪が必要かを聞くようなものだ)。買収のターゲットとなる会社の過去の業績から推定される将来利益の見通しが買収を正当化するために必要な金額に到達しないと突然シナジーなるものが見込みに現れる。スプレッドシートをいじくればこの買収はやるべきだと思わせる分析を作ることなどたやすい。」

【解説】
これは「第44回2016年」の一つ目のトピックでも似た内容が出てきた。2016年の例では利益を大きく見せたいCEOの例だった。今回は買収をしたがるCEO。どちらのケースもCEOには個人的な動機があり、且つCEOの意図をしっかりくみ取る「優秀な」部下たちがCEOを取り囲んでいる。そのような部下たちはCEOの意思決定が妥当なものだ、優れたものだというカンペキな分析が作ることができる。

企業の規模が大きくなればCEOを始めシニアエグゼクティブは権限の規模は大きくなり Perks を含む報酬も増えるものだ。また特に景気拡大局面では競合が買収を活発に行なっている時に「当社も何もしないわけにはいかない」というpeer pressureもある。多少価格に無理があっても買収を完結したいというインセンティブは非常に強い。マーケットが加熱してくると無理な買収を実行する例が増えていく。このような「組織に特有な行動」 "institutional behavior" をバフェットは特に注意すべきだと言っている。

本質的価値以上の値段を買収で支払ってしまうといずれは減損となる。そしてそのコストを払うのはCEOではなく株主なのだ。市場が活気づくと買収の誘惑は大きくなる。株価が高くなってくると企業は自社の株を買収の通貨として使えるため力をもつからだ。この買収通貨の価値を上げるために会計をいじるような行為の誘惑は非常に強くなる。会計操作でバリュエーションを上げればより有利な買収ができるからだ。これをひどく乱用した例として1960年代終わりのコングロマリットによる買収劇をバフェットは挙げている。

バフェットは市場が盛り上がると会計は緩む傾向があると言う。そして無理な買収をするといずれは減損によって損が実現し最後に尻ぬぐいをするのはいつも株主だ。株主の代表である取締役会がいかにCEOの買収提案を厳しい目で見るかは株主利益を守るという観点で極めて重要と言える。

この段落のバフェットの批判的なトーンはCEOと株主の利益が一致しないことと取締役会が上手く機能しない実情から来ておりコーポレートガバナンスはこの「株主への手紙」上でも最大のテーマの一つとなっている。

ハクゴ録「自分には見えておらず他者には見えていることが常にある。その事実を受け入れることは重要

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(03:02)

2022年08月19日

2022.8.18

学生バスケットボールでの賭け
前回「第44回2016年」の二つ目のトピックではバフェットとヘッジファンドマネージャーの賭け "The Bet" を取り上げたが今回は前回に引き続きバークシャーに関わる賭けの話題をご紹介したい。

毎年アメリカでは3月になると全米大学バスケットボールトーナメントが行われる。これは "March Madness" と呼ばれ日本で言うと夏の甲子園みたいな盛り上がりを見せる。皆自分の母校や地元の大学を応援して試合を見るが友達の間で勝敗を当てる賭けをするのが人気だ。64校のトーナメントが決まると友達の間や職場の仲間でどこのチームが勝つかを賭ける。

2014年にQuicken Loans という住宅ローンの会社がマーケティングの一環で大々的な賭けを公表した。それはこのMarch Madness トーナメントの勝敗を全て正しく当てた人に10億ドルの賞金を出すというものだった。10億ドル!しかも参加にお金はかからない。先着1500万人で締め切り。ハクゴはこのニュースを見て即応募した。

64校がトーナメントに参加するので63試合の勝敗を全て当てなければいけないため相当難しいが参加はタダなのでとにかく応募した。賞金が $1ビリオン!!  $1ミリオンでも十分みな応募するのではと思ったがそこは太っ腹オーナーとハクゴのセコさの感覚の違いだろう。各チームのオッズとかも調べて入念に選びウェブページから Submit!  続いて1ビリオン当たった場合何に使おうか計画し始めた。

ちなみにQuicken Loansの創業経営者は Dan Gilbert という人でNBAのレブロン・ジェームズもいたクリーブランドキャバリアーズのオーナーだ。バフェットとも近く2019年の株主総会にも来ていた。

Quicken Loans社は万が一誰かが "perfect bracket" を当ててしまったら$1billion 払わなければいけない。Quicken Loansはこの賭けに保険を掛けた。この時保険を売ったのがバークシャーだった。つまり誰かが perfect bracket を当てたらバークシャーが$1billion を支払うことになる。その代わりに保険プレミアムを受け取る。この保険料がQuicken Loansにとってのマーケティング費用となるわけだ。

さて結果は?

まずハクゴの結果から。第一日目の第一試合でなんと優勝候補の強豪 Ohio State Universityが負けるという大ハプニングでいきなりアウト。信じられない。初日のしかも一発目で消えるとは!?。。。せめて3試合目でアウトになりたかった。しかし結果は即アウト。即終了でハクゴのシーズンはここで終わった。

結局トーナメントの一番下の試合、つまり半分のチームが消えた時点でそれまでの勝敗を全て当てたものは一人もいなかったのでこの時点で賭けは終了した。全部当てるのはそれほど難しいのだ。

バークシャーはQuicken Loansが支払った保険料を儲けたわけだがバークシャーサイドで保険料計算をやっていたのは Ajit Jainだ。そしてバフェットも間違いなくこの計算を見ている。Ajit Jainについては「第38回2010年」の初めのトピックでも出てきたバークシャーの保険事業のトップだ。

この March Madnessの勝つ確率は計算すれば全部当てるのがほぼ不可能なことはわかるがそれにしてもすごい金額だ。バークシャーの保険ビジネスは統計を使って事象の確率を推定する一種の賭けのような側面が強い。そしてこの例のような一発もののプライシングをするプレイヤーは数が少ない。従って競争が少ないため有利な保険料を取れる可能性が高く逆に有利な状況でしか商売を取りに行かないのが Ajit Jainのスタイルだ。コモディティビジネスである保険業でバークシャーの保険事業の差別化ポイントは以下のように整理できる。

①競争が明らかに少ない時にアグレッシブに入っていく。
②最大損失が起こっても十分吸収できるリスクしかとらない。

これに加えバークシャーの有利な点は他社と違って保険事業以外の事業があるためライバル企業よりも資本が厚く①が実行しやすいことが挙げられる。保険事業はバークシャーのビジネスの柱であり保険事業については「34回2006年」の一つ目のトピックでも紹介しているのでご参照ください。

ハクゴ録「バークシャーの保険事業では特殊な保険を得意としている。


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