2022年07月25日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説していく。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解くことで巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2000年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company8,32922.1%
The Coca-Cola Company12,18832.4%
The Gillette Company3,4689.2%
The Washington Post Company1,0662.8%
Wells Fargo & Company3,0678.2%
Others9,50125.3%
Total37,619100.0%

それでは2000年の内容に入っていきたい。

買収後のシナジーについて
"No one wanted another jewelry chain to come in and decimate the organization with ideas about synergy and cost saving (which, though they would never work, were certain to be tried)."

「買収後にシナジーやコスト削減のアイディアで組織をめちゃめちゃにされることを誰も望んでいない。皆トライするがまず上手くいかない。」

【解説】
これはこの年に買収した Ben Bridge Jeweler という宝石店について。
通常企業を買収後、特に競合他社による買収の場合には買収会社の経営陣が乗り込んできてシナジーだ、コスト削減だと企業価値を上げようといろいろ試してくるものだがたいていは上手くいかないと言っている。
買収前にも買収後にシナジーが生まれることを買収の理由に上げる場合がほとんどだ。つまりこれだけシナジー出るから買収やりたいと買収を正当化する材料に使われる。バークシャーの場合は買収後も被買収会社の経営陣は残り今まで通りの経営を続け、シナジー追及もしない。
このように会社経営を変えようとする努力はできないことはないが意外と難しい。被買収会社の経営陣は買収会社の新しい経営方針を心底腹落ちして実行することはほとんどない。逆に「このビジネスのことを知りもしないくせに」と心理的反発がある場合が多く協力を得ることは難しい。明らかに被買収会社の経営陣がひどい経営者で経営者を変える場合は経営方針の変更はやりやすいがたいていは被買収会社を経営方針を変えてリードすることは難しいものだ。
そもそも他人にあれこれ指図されることを好む人はいないという心理的な壁がある。バークシャーの場合経営者を供給することはないのでもともと上手くいっている企業しか買収しない。なので経営方針を上からの指示で変えたりすることはない。またシナジー追及することもない。シナジーは非常にトリッキーで子会社間のシナジーとは要は身内だからひいきして買えという力が働いてしまい結果的にベストプラクティスにならないことが多い。この辺もバフェットは見抜いている。

業績が下がることもあるがそれも織り込んだ上で買収する。
"we purchased several companies whose earnings will almost certainly decline this year from peaks they reached in 1999 or 2000. The declines make no difference to us, given that we expect all of our businesses to now and then have ups and downs. (Only in the sales presentations of investment banks do earnings move forever upward.) We don’t care about the bumps; what matters are the overall results. But the decisions of other people are sometimes affected by the near-term outlook, ... "

「我々はいくつかの買収を昨年実行したがこれら企業の利益は1999から2000年にピークアウトしており今後おそらくは落ち込むと見られている。しかしそれは関係ない。全てのビジネスの業績は上がったり下がったりするものだからだ(投資銀行のピッチブックだけは別だが)。業績の凸凹は気にしない。重要なのは長期での結果だ。多くの人の買収の決断は短期の見通しに基づいている。」

【解説】
この内容は特にすごいと思った。バークシャーは2000年の市場のピーク時に買収を数件やっている。売り手はこの好調が続かないことを知っており売りたいという人が多かった時期だ。バフェットは買った企業の業績が下がっても良いと考えており短期的に業績の落ち込みがあることは織り込み済みだと言っている。 長期間トータルで多くの利益を小さな資本で生み出す企業であれば買いに躊躇しない。「投資銀行のピッチブック」という部分は投資銀行というのは客が企業を買収して初めて収益が上がるので要はセールスマンなのだ。なのでその買収対象企業の業績見通しはたいてい強気なものとなっている。売り上げはずっと上がり続ける見通しになっており要は信用ならないものと皮肉っている。
企業を買収する前に何を想定しているか、織り込んでいるかということは投資において非常に重要なことだ。業績が下がることもある。それを織り込み済みであれば業績が下がってもパニクることはない。短期的に業績が下がっても長期的には強い企業を買っている限り(もちろん買収価格は sensible なものというのは当たり前だが)タイミングは関係ないという事だ。バブルの頂点でこう言えるのはすごい。「第26回」で紹介したがバブルがいずれ崩壊することは見抜いた上で買収している。市場に全く影響されずに意思決定しているわけだ。

会社を誰に売るか問題
"We find it meaningful when an owner cares about whom he sells to. We like to do business with someone who loves his company, not just the money that a sale will bring him ..."
"When this emotional attachment exists, it signals that important qualities will likely be found within the business: honest accounting, pride of product, respect for customers, and a loyal group of associates having a strong sense of direction. The reverse is apt to be true, also. When an owner auctions off his business, exhibiting a total lack of interest in what follows, you will frequently find that it has been dressed up for sale, particularly when the seller is a “financial owner.” And if owners behave with little regard for their business and its people, their conduct will often contaminate attitudes and practices throughout the company."

「企業のオーナーが誰に売るかを気にしている場合これは重要な意味を持っている場合が多い。我々が買収をする時相手方オーナーが単に高く売れるかどうかでなくその企業を愛していることは重要なことだ。」
「このような感情がオーナーにある場合正直な会計方針、商品に対するプライド、顧客を大切に扱う気持ち、そして従業員もその会社の経営方針を納得し会社に忠実であるなど様々なプラスの要素があることが多い。逆にオーナーが価格だけで買い手を決めるような企業というのは売った後にその企業がどうなろうが全く無関心である場合が多く売却企業の会計もお化粧している場合が多い。ファイナンシャルオーナーの場合は特にそうだ。そしてオーナーがそのビジネスや従業員のことに無関心な場合そのような経営者の行動の影響は会社全体に広がっている場合が多い。」

【解説】
これは長い文章だが非常に重要なトピックなのでここでまとめておきたい。 
このトピックでもわかるが人間心理、行動を理解することがバフェットの投資行動の基礎となっている。
企業のオーナーがその企業を売却するとき一見一番高い買い値を出してくれる人に売るのがベストだと思うが実はそれ以外に重要な要素がある。一番高い値を出している買い手を選ばないオーナーもいるのだ。
金額ではなくて買い手が誰なのかを気にするオーナーの場合そこに何かがある。オーナーは自分の企業を成功に導く過程で従業員がいなければ成功できないことをよくわかっている。オーナーから見て自分の成功の過程を支えてくれた彼らは従業員以上の存在だ。戦友みたいな感じだろう。借りを感じている。こうした企業のオーナーは企業を売却した後も戦友たちの成功を心から望んでいる。
自分だけが会社売って大金手にして終わりとは考えない人が多い。このような企業は経営者・従業員・顧客・商品サービスが信頼や情熱などバランスシートには表れない価値で結びついている場合が多い。シンプルに言うと心が入っている。顧客の問題を解決したい、助けになりたいと心から思っている。商品・サービスに情熱を持っている。従業員は友人だ。こうした有機的な結びつきが企業を強くしている秘密だったりすることが多い。
逆に高く売ってオサラバというオーナーの場合こうしたつながりが薄く数字さえ高く出せれば(数字さえ作れれば)高値で売れるといったことにフォーカスしていて従業員も長期の価値づくりよりも短期的な数字づくりに意識が向いてたりする。
こうした観点で売り手を見るバフェットの言葉を聞くと長期の価値を重視するバークシャーと同じ共通項の目標を持つオーナーが親和性が高いのはよく理解できる。お互い引き寄せあっているように見える。

ハクゴ録「買い手を選ぶ企業には何か特別なものがある

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