2022年07月28日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説していく。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
多くの人が投資家として成長すればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2003年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company7,31220.7%
The Coca-Cola Company10,15028.8%
The Gillette Company3,52610.0%
H&R Block, Inc.8092.3%
HCA Inc.6651.9%
M&T Bank6591.9%
Moodyís Corporation1,4534.1%
PetroChina Company Limited1,3403.8%
The Washington Post Company1,3673.9%
Wells Fargo & Company3,3249.4%
Others4,68213.3%
Total35,287100.0%

それでは2003年の内容に入っていきたい。

クレイトンホームズ(Clayton Homes)の買収について
"I already knew the company to be the class act of the manufactured housing industry, knowledge I acquired after earlier making the mistake of buying some distressed junk debt of Oakwood Homes, one of the industry’s largest companies."

「クレイトンホームズについては業界で優良な一社であることは知っていた。競合で業界大手の Oakwood Homesのジャンク債を以前に買ったことがありその投資で損した経験がありその時の経験からクレイトンホームズ社を知っていたのだ。」

【解説】
この年クレイトンホームズ (Clayton Homes) という移動式住宅 (manufactured home) の製造販売会社を買収した。クレイトンホームズの競合であるオークウッド (Oakwood) はクレジット審査の甘さで支払不能が増え最後倒産したのだがバフェットは以前このオークウッドのジャンクボンドへの投資で失敗した経験がありそのことからその競合のクレイトンホームズについても知っており後にクレイトンホームズを買収したという経緯だ。またこの手紙の中でクレイトンホームの創業者の自伝を読んだことが紹介されている。
この自伝は"First A Dream" という本でハクゴも読んだが痛快アントレ物語。創業者のジム・クレイトンは南部の貧しい綿花畑の農家に生まれたが持ち前の明るい性格と聡明さで大学を卒業した。学生時代に安い中古の小型飛行機を友達と金を出し合って買い客を乗せるビジネスを立ち上げたりテレビ番組を制作、自らも出演し歌って踊るエンターテイナーだったり、中古自動車販売を始めたりいろんなビジネスを立ち上げた。最後は低価格の移動式住宅 (manufactured home)のビジネスを立ち上げこれが大成功。これをその後バークシャーに売却することになる。明るく楽しくポジティブでリーダーシップがあるイメージ通りのアメリカンアントレプレナーだ。ビジネスマンとしてのベンジャミン・フランクリンを彷彿させる人物だ。

McLane社の買収と投資銀行について

【解説】
McLane社は食料品などの卸売業者で売上$23bilの大企業。これはもともとウォルマートの子会社だったがバークシャーがこの年に買収した。
これはゴールドマン・サックスからの紹介案件。これを取り上げた理由はバフェットは投資銀行を基本的には非常に批判的に見ているが珍しく投資銀行からの紹介で買収をした珍しいパターンだからだ。
バフェットが投資銀行を胡散臭く見ている理由は投資銀行が買い手のことを考えずとにかく企業を売りつける的な性格を持っているからだ。投資銀行は買収を持ち掛け買収金額の%を手数料としてもらう。なのでディールをクローズしなければメシが食えない以上ある程度仕方がない部分はある。しかし彼らのプレゼンはとにかくこれは素晴らしい企業だ、だから買いましょうという前のめり過ぎるプレゼンであることが多い。買いましょうよオーラが出過ぎており企業でも証券でもとにかく売れば手数料が儲かるので中身が良かろうが悪かろうがなんでも売ろうとする投資銀行が多い。買う方も大して考えず拡大したいという欲望だけで買いたいという買い手も多く投資銀行にとってはいいカモとなる。
売り手は買い手のことなど考えず、買い手はその資産の価値など考えずに買うディールが多い。
A business is sold by people who don't care to people who don't think. などと揶揄される。
バフェットは企業を買うビジネスをやっているので投資銀行の世話にならざるを得ない面もある。バフェットは企業買収時には基本投資銀行を使わないが証券としての株式投資をする場合は投資銀行を通じて行っているし、「第23回」の一つ目のトピックで出てきたような転換権付優先株とかを買う時は投資銀行を使う。またデリバティブなども投資銀行を相対として取引する。
もちろん投資銀行自体が悪いわけでは全くなくその behavior に問題があると考えている。しかしその中でもゴールドマンサックスだけは特別に評価しており特にByron Trottというバンカーがいて彼を個人的に信用している。この McLaneの案件はこのTrottが持ち込んだものだ。
他の投資銀行としては過去にソロモンブラザーズを使っていたのが有名だ。バフェットはソロモンに投資もしている(これは「第27回」をご参照)。その昔1980年代にバフェットの投資先のGEICO が経営危機に陥った時ソロモンの当時の社長ジョン・ガットフレンドが資金調達で動いてくれた。その後ソロモンに投資したのだがこれはガットフレンドに頼まれて投資しておりGEICOの時の借りを返すためだったのではないかと思う。それってconflict of interestなのではないかとハクゴは少し疑っているのだがもちろん何を理由に買収を決めたかはわからないのでグレーゾーンだ。奇しくもその後ソロモンは不正発覚でトラブっておりバフェットはビジネス判断以上の部分で後悔するところがあったのではと想像する。

コーポレートガバナンスについて
"True independence – meaning the willingness to challenge a forceful CEO when something is wrong or foolish – is an enormously valuable trait in a director."
"The place to look for it is among high-grade people whose interests are in line with those of rank-and-file shareholders – and are inline in a very big way. We’ve made that search at Berkshire. We now have eleven directors and each of them, combined with members of their families, owns more than $4 million of Berkshire stock. All eleven directors purchased their holdings in the market just as you did; we’ve never passed out options or restricted shares. Charlie and I love such honest-to-God ownership. After all, who ever washes a rental car."
"director fees at Berkshire are nominal."
"The downside for Berkshire directors is actually worse than yours because we carry no directors and officers liability insurance. Therefore, if something really catastrophic happens on our directors’ watch, they are exposed to losses that will far exceed yours."

1「取締役は真に独立していること。つまりCEOが間違った方向にいっている場合CEOにチャレンジすること。これこそ取締役に求められる行動だ。」
2「理想の取締役とはビジネスパーソンとして有能でその利害が一般株主と一致している。しかも少額ではダメで大きな金額で利害が一致していないといけない。バークシャーではそのような取締役を探している。現在バークシャーの取締役のうち11人は自分とその家族がそれぞれ$4mil以上のバークシャー株式を保有している。彼らはみな自分の金でバークシャーの株を購入した。一般株主と同じようにだ。ストックオプションとかではなくて。チャーリーと私はそのような正直な取締役を好んでいる。つまるところレンタカーを洗う人間などいないということだ」
3「取締役の報酬は最小限に抑えること。」
4「ダウンサイドも株主と共有している。ダウンサイドは株主よりも大きい。取締役保険は与えていないため本当に大ダメージがバークシャーに起こった場合彼らの個人的なダウンサイドはあなた方株主より大きいのだ。」

【解説】
これはコーポレートガバナンスについてバフェットの考えがまとめてある非常に中身の濃いエッセイだ。
"Corporate Governance" と題して4ページにわたりバフェットの考えが述べられている。コーポレートガバナンスとは企業統治のことで株主・取締役会・経営者の関係のことだ。コーポレートガバナンスはビジネスの成功を考えるうえで極めて重要、一番重要、最高に重要と言ってもよいほど重要なトピックでこれがうまくまわっている企業は少ない。従ってここで差が付くのだ。
バフェットが毎年株主と6時間も話をし同じ質問でも何度でも丁寧に答え説明したり「株主への手紙」を書いてコミュニケーションを取っている理由は強いコーポレートガバナンスを築くためと言っても過言ではない。株主を教育し、経営陣を教育し、従業員を教育する。理解のレベル、信用のレベル、倫理観のレベル、そしてビジネスを超えた人としての徳のレベルを上げることでビジネスは上手く回るものだ。これを伝えることでバフェットとマンガーはバークシャーの強いコーポレートガバナンスを作っている。
そのコーポレートガバナンスについて別枠で説明しているのがこの抜粋部分。ビジネスと経営の成功について深く考えたい人は是非この部分をバフェット直々の言葉を読んでみることをお勧めする。
また、コーポレートガバナンスについてバフェットは "An Owner's Manual" というまとめを作っている。これは「株主への手紙」ではなく年次アニュアルレポートの一番最後あたりのページに載っている6ページほどの内容なのでビジネスと経営の成功について深く考えたい人はこれも読むことを強くお勧めする。バフェットのビジネス哲学のエッセンスがまとめてある。
3. これは1と直結している。報酬が小さければ取締役は株式の価値増加で儲けるしかないので株主と利害がより一致するわけだ。報酬が高い場合株主が損しても取締役はサラリー分は損しないので株主とダウンサイドの利害が一致しなくなる。
株主価値を上げるために取締役はいるはずだが取締役報酬が高いほど取締役はそのサラリーをくれるCEOを批判的に見なくなるだろう。つまり株主目線から離れていく。これってCEOが取締役を買収しているようなものだ。なので前回「第30回」の二つ目のトピックでも述べたように取締役の報酬は少なく、個人資産の多くをその企業の株に自らの金で買うのが理想的だ。
バークシャーの取締役の報酬は非常に少ない。なんと年間数千ドル程度しかない。アメリカの大企業では20万ドル以上はあるのに。バークシャーの取締役は皆個人資産の多くをバークシャー株式で保有している。取締役給与はほぼゼロなので実質的には株主が直でCEOを監視していることになる。これが理想形だろう。
4 会社役員賠償責任保険(D&O)
会社の取締役は善管注意義務違反で株主代表訴訟などで個人的に訴えられるリスクが常にある。これの保険としてdirectors&officers保険 (D&O)というものがあるがこれを買っていないということ。つまりバークシャーの取締役は自分が注意義務を怠って損害が発生させた場合個人で損害を補償する状態にあるということだ。この補償金額に上限はないためもしそのような事象が発生した場合には取締役の損は株式投資からの損にとどまらないため株主よりももっとリスクが高いということだ。これによりダウンサイドも一般株主と同じ運命を共有しているということだ。

上のトピックの続きだが多くの企業の取締役に足りない資質というのが挙げられている。

"In addition to being independent, directors should have business savvy, a shareholder orientation and a genuine interest in the company. The rarest of these qualities is business savvy – and if it is lacking, the other two are of little help. Many people who are smart, articulate and admired have no real understanding of business."

「独立性に加え取締役はビジネスへの理解が深く、株主目線でその会社に純粋な興味を持っている。しかしこの中で一番足りていない資質はビジネスへの理解が足りないということだ。ビジネスの理解が欠けていると他の二つもあまり役に立たなくなる。賢く細かな知識があり尊敬されている人でさえビジネスのことを本当に理解していることは少ない。」

【解説】
これは興味深い。頭の良い人は取締役に沢山いるがビジネスへの理解が足りない場合が多いと言っている。どの点で取締役はビジネスがわかっていないとバフェットは言っているのか?これが書かれていないためキモがわからない。逆にこれがわかればバフェットの観点から「ビジネスわかっている」ということになりぜひ知りたいところだ。
ハクゴの推察ではそのビジネスがどのようなキャッシュフローを将来生み出しそれがどのくらいブレる可能性があるのかを推定できることがビジネスを理解しているということだと思う。

ハクゴ録「コーポレートガバナンスがバークシャーの競争優位性の一つ

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