2022年08月02日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2006年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company9,19814.9%
Anheuser-Busch Cos., Inc.1,7922.9%
The Coca-Cola Company9,65015.7%
Conoco Phillips1,2912.1%
Johnson & Johnson1,4092.3%
M&T Bank8201.3%
Moody's Corporation3,3155.4%
PetroChina Company Limited3,3135.4%
POSCO1,1581.9%
The Procter & Gamble Company6,42710.4%
Tesco1,8203.0%
U.S. Bancorp1,1231.8%
USG Corp9361.5%
Wal-Mart Stores, Inc.9211.5%
The Washington Post Company1,2882.1%
Wells Fargo & Company7,75812.6%
White Mountains Insurance9991.6%
Others8,31513.5%
Total61,533100.0%

それでは2006年の内容に入っていきたい。

保険と株式投資の共通点
"Rates have recently fallen because a flood of capital has entered the super-cat field. We have therefore sharply reduced our wind exposures. Our behavior here parallels that which we employ in financial markets: Be fearful when others are greedy, and be greedy when others are fearful."

「保険料は最近下がってきた。それはSuper-catの分野に多くの資本が流れ込んできたからだ。なので我々は積極的な保険引受を控えた。この行動は我々の株式投資の方法と似ている。他人がどん欲になっている時に恐れ、他人が恐れている時にどん欲になるということだ。」

【解説】
バークシャーの主力事業は保険だ。一見株式投資が注目されるが保険事業はバークシャーの中の中核的な位置付けにある。これについては「第3回」の2つ目のトピックをご参照。
ここでは保険事業と株式投資の類似点が述べられている点が興味深い。
バフェットのビジネスの勝ち方には共通点がある。勝利の公式があるわけでもなくルールがあるわけでもない。あるのは共通した "behavior" だ。
保険事業は参入障壁が低く差別化もしにくい。いわばコモディティ的なビジネスなのだ。需要が高まると業界全体が儲かるが供給が高まると儲からなくなる。儲かる時期になると競合が一気に入ってくる。すると価格競争が起こる。保険の価格つまり保険料というのは付保している事象の発生確率と被害額によって決まる。従って競争が激しいから保険料が下がるというのはある時点で非合理的な判断になるわけだ。そんな時の保険料はリスクを十分織り込まない非合理的な価格となる。
保険マーケットが過熱して来るとこのような価格競争状態になる。短期的な利益を保証されないが長期的な失敗はほぼ保証されるとバフェットは言う。このような時バフェットは保険の安売り競争から手を引くのだ。つまり確率を勘案した十分高い保険料が取れないなら値下げは決してしない。
値下げ競争を続ける競合たちはしばらくは保険料が入ってくるためビジネスは継続する。しかし何年か経つと保険の対象となる事象がいずれは想定した確率で発生してくるため保険の支払いをすることになる。支払いの原資はもちろん保険料だが価格競争で十分な保険料を受け取っていないからいずれは損失となってしまうわけだ。業界全体で大損となり損が積もると規制されている財務基準を満たせなくなり退場となる。そうすると保険の供給不足となる。
この時バークシャーは待ってましたとばかりマーケットに入っていく。こんな時は確率を勘案した保険料よりもさらに高い保険料をチャージできるわけだ。

これは株式投資と似ている。
市場が加熱してくると株価はオーバーバリューとなる。株価とは企業が将来生み出すキャッシュフローを現在に割り引いたものの一株あたりの価値だ。短期の株価は需給で決まり需要が強いと押し上げられるので株価が高いほど投資リターンは下がる。ある時点でその企業のリスクに合わないほど低いリターンとなりオーバーバリューとなる。こんな時は競争に参加せずに引いた方が良いのだ。短期では需要が強く株価は上がるかもしれないが長期的には損するからだ。高い株価は永久には続かずいずれは株価は暴落する。その時にバフェットは待ってましたとばかりにマーケットに入ってくる。
保険にしても株式投資にしても短期の利益を求めて加熱フィーバーに参加したくなる。これがトラップだ。いずれは終わると分かりながら多くのプレイヤーが参加する。この時はリスクをちゃんと計算してsensible な価格なら取引する。そうでないなら引くというdiscipline が求められる。ほとんど全てのプレイヤーはdisciplineを失って突っ走るのだ。

効率的市場仮説について
"Tens of thousands of students were therefore sent out into life believing that on every day the price of every stock was “right” (or, more accurately, not demonstrably wrong) and that attempts to evaluate businesses – that is, stocks – were useless."

「このようにして何千という学生が市場の株価は株の真の価値を表していると信じ込み、それが故に企業の価値を分析して計るという努力は無駄だと思い込んでしまう。」

【解説】
これはEMT (Efficient Market Theory) 効率的市場仮説についてのコメント。
効率的市場仮説とは、市場はあらゆる新しい情報を全てすぐに織り込んでしまうためリスクに見合ったリターン以上の超過リターンを得ることはできない、効率的なのでうっかり安く放置されていたということがないため頑張って調査しても無駄という仮説だ。バフェットはこの理論は単に間違っているだけでなく害だと言っている。
市場の実態は株価と言うのは株の価値を正しく表していることもあるがほとんどの場合は株の本質的価値を表していない。その意味で効率的市場仮説は正しくないと言っている。効率的市場仮説はアメリカのビジネススクールで教えている内容だ。ハクゴもアメリカのビジネススクールで学んだがこの効率的市場仮説は授業で出てきた。その時非常に違和感を感じて友達と「これってマジで言っているのか」と議論したのを覚えている。
効率的市場仮説によると株価は全ての情報を織り込んでいるためいくら調べても市場を出し抜くことはできず調査は無駄ということになる。企業の真価はすでに株価として答えが出ているからだ。しかしもしこれが正しいとしたらバフェットのように成功している人はどう説明されるのか?
ハクゴも効率的市場仮説は全然正しくないと考えている。これは机上の空論だ。実際には株価というのは狂ったような高い値段になったり低くなったりする。これは歴史を通じてずっと観測されてきたことだ。この空論をもって企業調査をしなくなる人がどれだけいるかは疑問だがビジネススクールでこのような馬鹿げた理論を教える必要はないと思う。市場が情報を素早く折り込むという性質があることを教えるのは問題ない。しかし正しく織り込んでいるかどうかは極めて疑問でありそれが故に株価はとんでもない方向に進むことがままある。
どっちかというと効率的市場仮説の逆こそが学ぶべきことだと思う。つまり市場は時に大きく間違えるということの方が教えるべき結論ではないだろうか。過去の失敗から学び賢くなることを促進しなければ教育の意味はないと思う。
バフェットはこの株主への手紙とは別のところで語っていたが自分がもしビジネススクールで教えるとしたら二つのクラスをやりたいと言っていた。それは1)ビジネスの価値評価の仕方、2)マーケットとどう向き合うか。極めて重要なトピックだと思う。
この二つのどちらも過去の株主の手紙や株主総会で出てきたトピックで概念的な説明はなされるが実例を持ってwalk throughしてくれたらありがたい。ここが学校の教授と実務家の違いだろう。実務家は別の責任があるため教育活動には限界があるのだろう。
バフェットのバリュエーションをぜひ見てみたいが想像するにおそらく暗算でもできるくらい単純な計算で出していると思う。
今ではもう参考にならないが実はバフェット自身のバリュエーションを実例で披露しているケースが過去にある。これはこの「株主の手紙」シリーズでは取上げ対象外の1962年に当時所有していたDempster Mill Manufacturing Company という会社のバリュエーションを株主への手紙上で行っている。正確にはこの当時はバークシャー・ハサウェイの株主への手紙ではなく、Buffett Partnership Ltd. というパートナー向けの手紙上だ。
このDempster のバリュエーションはいわゆるコストアプローチで各資産に割引掛目をかけて負債を引いて計算している。バランスシートとその横に掛け目を表示して計算し最後一株株価の価格まで計算してある。
当時でもこの方法はその会社の成長ポテンシャルを勘案していないこと、すぐに企業を売る場合の価格である点が留意点として挙げられていた。今は役に立たないがバフェットの「手計算」が見れるという意味で興味深い。

ハクゴ録「バフェットのビジネスの勝ち方には共通点がある

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