2022年08月05日

2022.6.11-2

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。

目指すは賢明なる投資家!

2009年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company6,14310.4%
BYD Company, Ltd1,9863.4%
The Coca-Cola Company11,40019.3%
Conoco Phillips1,9263.3%
Johnson & Johnson1,8383.1%
Kraft Foods Inc.3,5416.0%
POSCO2,0923.5%
The Procter & Gamble Company5,0408.5%
Sanofi-Aventis1,9793.4%
Tesco1,6202.7%
U.S. Bancorp1,7252.9%
Wal-Mart Stores, Inc.2,0873.5%
Wells Fargo & Company9,02115.3%
Others8,63614.6%
Total59,034100.0%

それでは2009年の内容に入っていきたい。

バフェットは68もの子会社をどう管理しているのか
"But we will never allow Berkshire to become some monolith that is overrun with committees, budget presentations and multiple layers of management. Instead, we plan to operate as a collection of separately-managed medium sized and large businesses, most of whose decision-making occurs at the operating level. Charlie and I will limit ourselves to allocating capital, controlling enterprise risk, choosing managers and setting their compensation."

「大企業になると委員会とか予算プレゼンとか何層にもなる意思決定などでマネジされるがことになりがちだが我々はバークシャーをそのような企業にはしたくない。そうではなく意思決定は子会社レベルで独立して行う中型から大型の企業の集合体でありたい。チャーリーと私はキャピタルアロケーション、リスクコントロール、そして経営者を選びその報酬を決めることに専念したい。」

【解説】
このトピックはバークシャーが子会社をどうマネジするかについて。
バークシャーは68社を子会社として保有している持ち株会社だ。通常子会社を複数保有している企業は子会社トップが経営にあたる。親会社は年次予算を承認したり予算以外の重要決定事項、予算を超える設備投資や買収案件とか人事とかについて親会社の承認を仰ぐ。そのため10社子会社があったら最低10回は予算会議をやることになり大変な作業となる。この仕事をこなすために子会社の数が増えると親会社はどんどん大組織へと肥大化していく。大組織になるとルールがどんどん増えていく。ルールは守らないと意味がないので業務や意思決定をチェックする組織ができる。子会社の意思決定はルールに準拠していないといけないので意思決定が遅くなる。プロセスは複雑になり、意思決定の質はどんどん低下する。この時点ですでに本末転倒だがここで終わらない。意思決定の質が低下すると失敗が増えるのだ。失敗が増えると再発防止のためにまた新しいルール増える or 既存ルールが厳しくなる。そしてルールに comply することをチェックする作業が増え人がさらに必要になる。新しい人のトレーニングから担当の振り分けをするためにさらに人が必要になる。仕事はさらに増え決められたとおりの仕事をこなすだけでいっぱいいっぱいの社員の数が増え続ける。

投資の哲学を考えたり議論する時間とか投資案件が良いものか悪いものか議論する時間とかがどんどん少なくなってしまうのだ。そうなればさらに意思決定の質は下がる一方だ。失敗が増え権限移譲はさらに遅れていく。本末転倒が加速していくわけだ。こうして仕事量は増えるのに結果は全然上がらないという大企業病が出来上がるのだ。

これがバフェットが懸念していることで大企業の投資部門では多かれ少なかれこうなる傾向が強い。権限移譲ができていないからこうなる。これを見透かしているバフェットは子会社マネジについては意思決定は全て子会社CEOに任せている。子会社レベルですべて行う。子会社CEOに対しては自分の責任で自分が株主だったらどう行動するか?株主のように考え株主のように行動する。これを伝え、そう行動するように報酬を設計している。キャピタルアロケーションについて多少の教育をしているがあとは全部子会社経営陣に任せている。もともとそのようにできる経営者がいる会社を選んでいるのだ。

このようにバフェットの仕事は経営者の選択、報酬設計とキャピタルアロケーションが主務となっておりこれだけを一日中考えられるような環境になっているため子会社の数がいくら増えても全く問題ないのだ。

メディアについて
“We are certain, for example, that the economy will be in shambles throughout 2009 – and probably well beyond – but that conclusion does not tell us whether the market will rise or fall.” Many news organizations reported – indeed, blared – the first part of the sentence while making no mention whatsoever of its ending. I regard this as terrible journalism: Misinformed readers or viewers may well have thought that Charlie and I were forecasting bad things for the stock market, though we had not only in that sentence, but also elsewhere, made it clear we weren’t predicting the market at all.

「2009年は経済はまだ弱くその後も続くかもしれない。しかしそれはマーケットがこれから上がるとか下がるとかを述べたわけではない。という発言を以前にしたことがあるがこれをもって多くのニュースが反応し初めの文つまり経済が弱く続くというところだけを切り出してバフェットが弱気に見ている!と大々的に宣伝した。これはひどいジャーナリズムだ。このニュースを聞いた視聴者はチャーリーと私が今後株価が下がると予想したと勘違いした。この第二文でも株式市場の行方を予想することはないと述べているし他のところでも常に言っていることだが我々は株式市場の予想はしないのだ。」

【解説】
 ひどいメディアというのは世の中にたくさんある。メディアはその性質上人々の "attention"を求める。つまり大衆が皆自分のメディアに注目することが重要だ。悪いメディアはこれを間違った方法で達成しようとする。そして大衆が自分たちの書いていることを信じることを理想的な状況と考えるようになる。

市場の大きな関心の対象となるバフェットもこのようなメディアの材料に使われることがままある。この例のように発言の一部を切り出してニュースにするということもある。こうしたことは古今東西無数にある。

バフェットはしゃべるメディアは厳選している。またハクゴの印象ではしゃべる内容についてはとても注意深く言葉を選んで話している。しかし結構おしゃべりなのでたまに危なっかしい場面もあるが短期の株式相場に対する意見とか短期の個別株の株価に対する意見は特に注意していてまず話さない。個別企業のファンダメンタルズについては大いに語るが短期の株価については話さない。というかわからないと常に言っている。

ハクゴの想像では昔は多分軽率に話すことが多く、また感情的になりやすい性格だったことが想像している。知性と学習とそれからマンガーのコーチで矯正してきたような感じを受ける。この段落にもあるようにメディアが発言の一部だけを切り取って人々の注目を操作するときもかなり怒っていることが想像できる。

経営者のモラル
"The CEOs and directors of the failed companies, however, have largely gone unscathed. Their fortunes may have been diminished by the disasters they oversaw, but they still live in grand style. It is the behavior of these CEOs and directors that needs to be changed: If their institutions and the country are harmed by their recklessness, they should pay a heavy price"

「(住宅バブル崩壊で)倒産した企業のCEOや取締役はおおむね無傷で済んだ。確かに自分の会社がつぶれたことで損害を被ったかもしれないがそれでもいまだに豪華な暮らしができている。変わらなければいけないのはCEOと取締役の behaviorだ。自分が無茶苦茶なことをやって会社がつぶれたなら彼らはその責任を取るべきだ。」

【解説】
この手紙が書かれたのは住宅バブル崩壊後経済がダメージ食らいまくっている最中だ。住宅バブル崩壊で多くの銀行や金融機関がつぶれた。その舵取りをしていたCEOなどのシニアマネジメントはもちろん持ち株分とかは損しているかもしれないがそれまでにもらった報酬やperksなどで豪華な暮らしが続いていた。株主は投資全損したのに。。。
これは企業倫理・モラルの問題だ。モラルが経営者や取締役の behavior を決める。そして経営者や取締役の behaviorが企業の運命を決める。バフェットは他人の金で贅沢三昧の経営陣の behavior を変えることが重要だと言っている。しかし同時にこれは非常に難しいこともバフェットは認識している。

第33回 2005年」の一つ目のトピックで紹介したが大企業のトップマネジメントはさまざまな方法で会社の金を私用に使うことができる。これは業界全体で上がっていき優れた経営者は需要が高いためこれを止めることは難しい。止めれないとbehaviorを正すことは出来ず企業文化は変わっていかないわけだ。

しかしもう一歩大きな視点で見てみるとサブプライムローンバブル崩壊は大恐慌化した可能性が高かった。それを当時TARPと呼ばれる$700bil もの公的資金を使って金融システムを救ったという経緯があった。当時はこの国家の危機を救うことが何よりも重要なことでこれに失敗したら今の経済はなかっただろう。そういう意味では個々の企業のお偉いさんがどんだけ会社の金で贅沢してたかは小さな問題となってしまう。

無茶なリスクの取り方に問題があったことは確かでそれについては法整備が取られたのとつぶれた企業は競合の傘下に入ったケースが大きく経営陣は一定の責任を取らされたのは事実だ。しかしコーポレートガバナンス上の課題は大きくこれが個社を超えたシステミックな問題に将来また発展する可能性は十分にあると思う。個社の企業のCEOの行動が企業の行動を反映するからだ。

ハクゴ録「権限移譲ができないと大企業病が進む

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