2022年09月06日

2022.6.11-2

ついに最終回!
ついに最新分の2021年。2022年の分は来年2月に出てきたところで続けていくがいったんおしまい。
1977年から45年分と長かったがそれだけ歴史のある企業という事だ。読者の皆さんがこの「バフェットを読む」を通じて世界一の投資家が投資やビジネスについてどう考えているのかをより深く理解できれば嬉しく思います。

ご意見・ご感想・ご質問等あれば是非お寄せください。

世界最高の投資家から投資を学ぼう企画。1977年からのバフェットから「株主への手紙」を読破する。
バフェットを「読む」は毎年バークシャー・ハサウェイ社の年次報告書で発表されるバフェットの「株主への手紙」原文を読みその年の内容の中で最重要と思われる2,3点を抜き出して解説する。
バフェットは投資とビジネスの様々な局面でどう考え、どう動くのか?これを読み解いていけば巨人の肩に乗り投資家として今よりもずっと遠くが見えるようになるだろう。そしていつか自分の足で立ちバフェットの視座から世界が見えるようになることを目指す。
抜粋部分には書かれていないバックグラウンドなども紹介してより立体的にバフェットの考え方を理解できるように解説したい。
賢人の教えを学びより多くの人とここで理解をシェアしたいと思う。多くの人が投資家としてより良い判断ができるようになればビジネスは賢くなり、より豊かな社会につながるだろう。
目指すは賢明なる投資家!

2021年バークシャーの保有株は以下の通り。
銘柄MKT value
($mil)
割合
American Express Company24,8047.1%
Apple Inc.161,15545.9%
Bank of America Corporation45,95213.1%
Bank of New York Mellon3,8821.1%
BYD Co. Ltd.7,6932.2%
Charter Communications, Inc.2,4960.7%
Chevron Corporation4,4881.3%
The Coca-Cola Company23,6846.8%
General Motors Company3,1060.9%
Itochu Corporation2,7280.8%
Mitsubishi Corporation2,5930.7%
Mitsui & Co., Ltd.2,2190.6%
Moody’s Corporation9,6362.7%
U.S. Bancorp8,0582.3%
Verizon Communications Inc.8,2532.4%
Others39,97211.4%
Total350,719100.0%

それでは2021年の内容に入っていきたい。

自分で立ち上げた企業を誰に売るか問題
"Sell to a competitor? From a strictly economic viewpoint, that course made the most sense. After all, competitors could envision lucrative “synergies” – savings that would be achieved as the acquirer slashed duplicated functions at TTI. But . . . Such a purchaser would most certainly also retain its CFO, its legal counsel, its HR unit."

「(企業を競合に売ることについて)結局のところ買い手が競合の場合ダブっているポジションを切ることによって大きなコストシナジーを実現できる。当然自社のCFO、法務、そして人事を残すので競合のポジションは切られることになる。」

【解説】
「株主への手紙」では同じトピックが何度も出て来る。これらはやはりバフェットが特に重要と考えているトピックということだと思う。今回の企業を誰に売るかという問題も「第28回2000年」の3つ目のトピックでも関連する内容が出てきた。

自分が立ち上げて長年かけて育ててきた会社を誰かに売却する場合誰に売るべきかというのはオーナー経営者にとって大きな問題だ。競合に売ることは一つの選択肢となる。そして競合に売ると高く売れる場合が多い。競合は顧客を奪い合っている関係にあるので競合を飲み込んでしまえば競争関係が改善するからだ。 またいわゆるコーポレート機能(CFO,法務、経理、HRなど)は重複する部分が多い。2社分要らないためその分はコストを削減できる。しかしその場合どちらの会社の社員が切られるか?これは当然社員が優秀かどうかに関わらず被買収企業の人から切られる可能性が高い。

企業のオーナーは多少金額が高いからと言って自分の成功を支えてくれた従業員が切られ自分だけ売り逃げすることをためらうものだ。従業員の将来を思うオーナーにとってバークシャーは素晴らしい家となる。バークシャーが買収する場合はバークシャーという持ち株会社の傘下に入るためコーポレート機能の重複は起こらないからだ。

この段落ではバークシャー子会社のTTIという会社の元創業オーナーがこの年に亡くなられたのだがそのオーナーがバフェットと出会い競合に売却せずにバークシャーの子会社になったことでその後バークシャー傘下でビジネスが成長し続けバークシャーが買収以来従業員数は3倍以上になったという経緯の説明の一文。従業員が切られることもなく逆に大きく成長した好例だ。

成功とは他者と分かち合うことで本当の成功となる。従業員と成功を分かち合ったこのオーナーもバークシャーの子会社としてもう一つの大きな成功をおさめたのだろう。

オランウータン効果
"Teaching, like writing, has helped me develop and clarify my own thoughts. Charlie calls this phenomenon the orangutan effect: If you sit down with an orangutan and carefully explain to it one of your cherished ideas, you may leave behind a puzzled primate, but will yourself exit thinking more clearly." 

「教えることは書き出すことと同じように自分の考えの整理に役立つ。チャーリーはこの現象をオランウータン効果と呼んでいる。オランウータンと同じ部屋に座り自分が深く考えていることについてオランウータンに詳しく説明してみる。そうするとその部屋には不思議顔のオランウータンと頭がすっきりした自分が残るだろう。」

【解説】
チャーリー・マンガーの言葉。バフェットの相棒チャーリー・マンガーは皮肉を一味加えたユーモアで有名だ。マンガーは愚かさや欺瞞、不誠実を嫌い、真実と誠実さ追求する。いかに徳を積み良い人間になっていくかを考え続ける哲学者だ。人生の教訓の百科事典のような人物だ。ビジネスでも"Do well by doing good" を体現している。汚いことをしなくてもビジネスで成功することは十分できると言うことを証明している。

バフェットに大きな影響を与えたチャーリー・マンガー。彼の一面を知る上で一つのヒントとなるかもしれないがマンガーが最も尊敬する人物はアメリカ建国の父の一人ベンジャミン・フランクリンだ。新しいことを考案し既存のやり方にとらわれず実用的で合理的なアイディアマン。哲学者としての深い思考だけではなくなんでも実行して人の役に立つことを重視している。科学者でありエンジニアでもある。良いアイディアを思い立つたつと小さいアイディアでも大きなアイディアでもそれを広く発表し賛同する人を集め実行し自分の身の回りの小さなコミュニティから社会を良くしていった。

町の道路の清掃から当時は貴重だった本の貸し出し、詩の発表会、新聞の発行、消防隊の結成、治安維持のグループまで結成した。有名な避雷針の発明はもちろんイギリスではアダム・スミスやデビッド・ヒュームと言った当時最高の哲学者とも議論した。貧しい家庭に生まれたが類い稀な才能でヨーロッパでは大人気の学者となりマリー・アントワネットにもよばれて一緒に食事もした。ペンシルバニア大学の創始者でもある。

そんな合理主義者、実用主義者のベンジャミン・フランクリンを尊敬するマンガーのオフィスにはベンジャミン・フランクリンの銅像が飾ってある。マンガーも合理的な実用主義者だ。知恵は実践し始めて意味があると考えている。大の読書家として知られているマンガーは膨大な読書で得た知恵を投資で実践している。

そのマンガーの言葉の一つが今回紹介されている。頭の中で整理できていないことも人に説明することで考えがクリアーになるという「オランウータン効果」。思考方法のアイディアだ。よくインプットだけでなくアウトプットすることで理解が一層確かなものになると言う。アウトプットすることで自分の考えがよりはっきりするということだ。投資をやっていてもいろいろなアイディアが出て来て整理がつかなくなることもある。これを他人に説明したり書いたりすると自分が良く整理できていない部分が明らかになったりして結果的に整理できるものだ。

どんな職業を選ぶべきか?
"I have urged that they seek employment in (1) the field and (2) with the kind of people they would select, if they had no need for money. Economic realities, I acknowledge, may interfere with that kind of search. Even so, I urge the students never to give up the quest, for when they find that sort of job, they will no longer be “working.”"

「大学生の彼らにアドバイスしているのは仮に自分がお金を稼ぐ必要がなくても選択するであろう職業の分野と一緒に働く人を選ぶべきだ。経済的なことを考慮する必要が現実的にはあるのはわかる。しかしその場合でもそのような基準で仕事を探すことをあきらめないように薦めている。もしそのような仕事が見つかったらそれはもう仕事ではなくなるから。」

【解説】
これはバフェットの大学生に対する職業アドバイス。

自分がやりたいことは何か?

この問いは多くの人にとって簡単な問いではないと思う。経済的な現実というものがこの問いを深く考えることを邪魔することもある。お金を稼ぐ必要がなくても自分がやりたいことを選択するとしたら何を自分は選ぶか?それを追求しよう。これがバフェットのアドバイスだ。

自分がやりたいことを見出すことすら難しい。ハクゴも振り返ると大学生の頃は何をやりたいかなんて全くわからなかった。自分が何をやりたいかを見出してもそれを職業とできるか?これはさらに難しいと思う。

ハクゴは今は自分がやりたいことがはっきりわかっている。それが今やっている投資だ。職業としてできれば良いがなかなかその道は簡単ではない。しかしあきらめずに進めばいずれできると信じている。バフェットも "never give up the quest" と言っているように。

ハクゴは12年前のある時このバリュー投資に対する情熱を偶然見出した。それ以来ずっと投資を学び投資を楽しんでいる。バフェットが言うようにこれはもう「仕事」ではない。楽しいから。この楽しみを発見して大きく人生が変わった。楽しいから知識は無限に増える。投資を起点にいろんなことに興味が広がった。仕事も普段の日常生活でもなんでも投資という観点とからめて見ることができるようになった。全てがつながっているような感じがする。

他にも情熱があればもっと楽しいと思いこのブログのプロフィールにあるように自分の情熱は「新しい情熱を発見する方法を考案すること」と書いている。

自分のやりたいことを見出すこともそれを職業にすることもどちらも簡単なことではない。しかし「難しいイコールやらない」とは決してならない。進むべき道に難度は関係ないと思う。進むべき方向性、やるべきこと、正しいことをまず知る。そして決してあきらめず追求し続けること。情熱こそ幸せな人生の原動力だ。
だからあきらめない。

以上で1977年から2021年までの「株主への手紙」解説は完結です!

ハクゴ録「Never give up the quest

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(00:16)

この記事へのコメント

1. Posted by T.A.5    2022年09月07日 15:06
ハクゴ様

『バフェットを「読む」』を最初から今回まで、全て読ませていただきました。
今、『バフェットからの手紙』を再読しておりますが、ハクゴ様の記事のおかげで、以前よりも本の内容を理解できているように感じます。
感謝申し上げます。
2. Posted by ハクゴ   2022年09月07日 23:41
>>1
T.A.さんありがとうございます。全部読んでくれている人がいるというのはとてもうれしいです。私はバフェットの株主への手紙は一度通読したのと以前にローレンス・カニンガムの "The Essays of Warren Buffett"(邦題;「バフェットからの手紙」)を読んでいたのでエッセンスは知っていましたがやはり手紙を全部読むと違うと思いました。バフェット本は過去にほとんど読みましたがそれでもわからないところはたくさんありましたが今回株主への手紙を通読することでほとんど解決しました。過去に読んだバフェット本は一度目は難しく感じましたが理解が深まった今再読してみようとも考えています。
今はCNBCのTVインタビューのアーカイブを全て見ている途中です。話ことばのバフェットはまた違う情報も出て来るのでこちらも勉強になります。
T.A.さんは「バフェットからの手紙」はローレンス・カニンガム氏の本を読んだのでしょうか。バフェット研究は長くやられているのでしょうか。
3. Posted by T.A.   2022年09月08日 10:37
>>2
ご返信いただきありがとうございます。
おっしゃる通り、ローレンス・カニンガム氏の本を読みました。
最初に読んだときは理解できず、二度目でやや理解でき、今回三回目に挑戦中という状態です。
バフェット研究をしているわけではないのですが、バフェットの考え方、マインドを少しでも身につけたいと考えています。特に、昨今の市場環境において、自分の投資基準がブレていることを痛感したため、今一度バフェットの本に立ち返る必要があると思っている次第です。
4. Posted by ハクゴ   2022年09月09日 00:09
T.A.さん。
私もバフェットの考え方、マインドを学び「賢明なる投資家」に近づきたいと日々学んでいます。
私も市場が動くときほど自分の気持ちや考えがブレてしまいがちなのでそれをどう克服するかが一つの大きな課題です。バフェットも自分が投資を教えるとしたら1.企業価値の計り方、2.市場との付き合い方の二つを挙げており2.は価値の変化より大きく動く価格とどう付き合うかということでまさに自分に必要なこと思います。バフェットが取り上げる二つの重要概念のうちの一つなので誰にとっても克服するのが難しいということでもあるのでしょう。バフェットは価格と価値が違うことを繰り返し何十年にもわたって説明してくれていますが私はいまだに克服できていません。知識と知恵の違いとはこういうものでしょう。
私の体験ではバフェットの本を読むと疑問点のリストが一気に増え、長い時間をかけて一つ一つ消えていくということの繰り返しです。長期的にははるかに理解度が上がっています。今後もずっと読んでいきたいと思っています。
学びがあるたびにブログにアップしていきたいと思います。
もしT.A.さんが本で学ぶ過程でわからない部分などあったら質問していただければ答えられるかどうかはわかりませんが一緒に考えてみたいです。コミュニケーションの中でいろいろ見えて来ることがあるかと思います。
5. Posted by T.A.   2022年09月09日 10:30
>知識と知恵の違い
まさにおっしゃる通りだと思います。
価格と価値が違うと頭では理解できたとしても、そのとおりに行動できるかどうかはまた別問題ですね。特に暴落局面ではMr. Marketに翻弄され、平常心を保てず、グレートビジネスを売却してしまう愚行を繰り返したこともありますのでなかなか難しいです。
読書で理解を深めつつ、そのとおりに行動できる克己心を身につける。これを日々継続するしかないのでしょうね。
また何か分からないことがあれば質問もさせていただきます(といいつつも、分からないことが多いのでまずはもっと勉強が必要ですが(笑))。
今後も、ハクゴさんの記事を楽しみにしております。
6. Posted by ハクゴ   2022年09月10日 03:18
ありがとうございます!

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